色をなくした世界 (ページ8)

今日:22 hit、昨日:8 hit、合計:5,910 hit

＊ページ8

「……いち」
「にぃ……」
『さん』
「し……」
「ご」

視聴覚教室には私を含めて4人しか居ない。なのに、聞き慣れない低い男性の声が聞こえた。それは、みんなにも聞こえて居たのか友人たちは一斉に声を荒げた。

「やだーっ！」
「出たーっ。出たーっっ！」
「やーっ！」

私を除いた3人が一斉に叫ぶ。『うるさい』私は耳を塞ぎたい気持ちだったが、隣に座っていたミチルが抱き付いてきた為、耳を塞ぐ事ができなかった。プチ阿鼻叫喚の中、真っ暗だった教室に、明かりが付く。真っ暗闇から急に明るくなった為か、すこしだけクラクラと眩暈がする。

「……い、今『ご』っていったのあなたですか？」
「そう……悪かった？」
「腰が抜けるかと思ったあ」
「それは失礼。明かりがついてないんで、誰も居ないと思ったんだ。そしたら、声がしたからつい……」

明るさに目が慣れてきた友人たちは、優しく微笑む青年の美しい容姿を見て頬を赤く染める。

「そんなあ！いいんですう、転校生ですか？」
「そんなもんかな」
「何年生ですかァ？」
「……今年で17」
「じゃ、あたし達より一年先輩ですね」

初めて聞く友人の猫撫で声に違和感を感じながら、#蓮#は何とも言えない感じになるが。それよりも違和感を感じたのが目の前の青年だった。彼が本当の転校生ならば学年を聞かれれば、普通は、自身のクラスの学年を答える筈。けれども、目の前の青年は、学年ではなくて年齢を答えた。

「あたしたち怪談してたんです」
「ふうん……仲間に入れて貰えるかな」
「とーぞ、どーぞっ。あっ、お名前なんて言うんですかあ？」
「渋谷」
「渋谷先輩も階段好きなんですか？」
「まあ……」

黄色い声を上げて渋谷と呼ばれた青年と話す友人たち。蓮は、少し離れた場所で友人たちが囲んでいる青年をじっと眺めた。何だろう……この違和感。彼の表情は笑っているのに笑っていない。今だって、友人たちと話す声は、とても優しくて明るい感じの筈なのに、彼の目は全く笑って居ない。

『あの、渋谷さん』
「なにか？」
『こんな所で何してるんですか？』
「ちよっと、用事があって」
『じゃあ、その用事を済ませた方が良いのではないですか？私達は帰りますので』

ちょっと言い方が無愛想かと思ってしまったが腹の底が知れぬ人を大切な友人たちを近づかせる訳にはいかない。刺さる様な視線が渋谷から降り注がれる。普通の16歳の女の子であれば彼のあの鋭い視線を向けられれば恐怖で萎縮するだろう。しかし、蓮は普通の何処にでもいる女子高校生とは違う。