色をなくした世界 (ページ43)

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滝川の叫ぶ声が聞こえてくる。咄嗟に、手で押さえるも遅く。ふわりと浮遊感にも似た感覚が走る。あ……倒れる。どこか、他人ごとのように思えた。そこからあとは、なにが起こったのかは、覚えていない……。

真っ暗な世界に、ただ一人。私は、床に寝っ転がっていた。ここは……どこだろうか。そんな疑問を浮かべながらも、あまりの心地の良さに、眠気が込み上げてくる。とても、気持ちがいい。このまま……なにも考えずに眠りにつきたい。私は、そっと開けていた瞼を閉じる。そのとき。額にひんやりとした感触がした。

「……？」

閉じていた瞼を上げれば、ナルによく似た青年が優しい笑顔を浮かべて、私の額の上に手を置いていた。

「……あなたは、誰？」
「……」
「ナル……じゃないよね」

青年は、笑顔のままなにも答えない。ナルと似た姿。けれども、違う誰か。ああ……もうしかしたら。

「あなたは、ナルが探している。双子のお兄さんね」
「……！」

相変わらず、なにも答えてくれないが。微かに、驚いた様子を見せたということは、間違いではないらしい。

「ナルは……ずっと、あなたを……」

『探してらみたいだよ』と告げようとしても、この空間の気持ちよさに、瞼がゆっくりと落ちてくる。

「今は、なにも考えずに、ゆっくりと休んだほうがいい」

無表情なナルとは裏腹で。彼は酷く優しく笑う。その姿が、まるで……麻衣みたいで。なんだが、切なさと懐かしさを感じる。

「ま……い……」

小さく、麻衣の名前を呟いたあと。私は、深い微睡のなかへと落ちていった。そんな、彼女の姿を見て。青年は……ジーンは、彼女の頭を優しく撫でた。

「ナルの味方でいてくれて、アリガトウね……」

『今は、おやすみ』優しく、彼女の額に口付けをした。

＊

ズキズキと酷く頭が痛む。誰かの呼びかける声に。パチリと目を開ける。ぼんやりとする視界のなか、辺りを見渡す。

「嬢ちゃん！大丈夫か！？」

焦ったようすの表情を浮かべる滝川が視界へ映り込む。その隣では、ジョンが心配した様子で私を見ており。松崎に至っては、涙を浮かべてハンカチを握っていた。

「もう！心配したんだからね！何階呼んでも起きないから、死んじゃったかと思ったわよ！」
『……心配かけました』

酷く痛む頭を抑えながら、横になっていた身体を起こす。パサリと身体にかけていた上着が落ちる。