色をなくした世界 (ページ40)

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「話せたのか……」
「ええ、とある事象でいつもは筆談で話しているんですけどね……」

それだけを告げて、お互いが黙り込んでしまった。また、私たちの間に沈黙が訪れた。

「……僕が間違ってないといったな。ほんとうに、そう思うか？」
「ええ。私は、嘘はいいませんよ」

ナルの言うとおり、あの校舎は近いうち少なからず倒壊するだろう。けれども、それは霊の仕業なんかではない。ナルが言っていたとおり、地盤沈下で倒壊するのだ。

「だけど……」
「？」
「ナル……確かに、あの建物は地盤沈下で近いうちあの校舎は倒壊する。しかし、目に見えるものだけが真実ではありませんよ」

ナルの手当てを終えて、私は、そっとナルのそばを離れる。

「どういう……」
「私が答えなくても……聡いあなたならすぐに解決する。けれど、一つ。ヒントをあげるとするなら、今回のキーパーソンは黒田さんだよ」

『ゆっくり考えてみて』我ながら、意地悪な答え方だったが。教えてやるつもりは、さらさらない。教えたところで、この聡い人間は納得しないだろう。ならば、自分で考えて答えを導き出せば良い。『それじゃあ、わたしはもう行くね。ちゃんと、怪我したところ、消毒してね』それだけを告げて、私は旧校舎へ踵を返した。

＊

旧校舎へ戻ると、ジョンが黒田さんの手当てをしていた。傷は、ナルほど深いわけでもなく、浅いものらしくガーゼを当てるほどでもないらしい。しかし、黒田の格好は酷いもので。服はところどころ埃や泥で汚れており、浅いといえど怪我もしていたため、今日のところは帰ってもらった。黒田も何も言い返すこともなく、黙って従って帰っていった。ジョンと二人で黒田を見送った後、旧校舎の方へ向かう。ナルの姿は見えない。きっと、私のヒントを頼りに答えを導きだそうとしているのだろう。

『ナルは知りませんか？』

私は、お惚けたようすで松崎たちへ尋ねる。

「いんや。おい、あっちの子はどうした？」
『黒田さんなら、帰りましたよ。いったい、どこへ行ったんですかね？』
「恥ずかしくなって、逃げ出したんじゃないの？」
「かもな」

相変わらずの態度の二人へ対して、呆れを通り越して無になってしまう。いい加減な大人もいたものだ。片方は、たいした除霊能力もないのに、よく偉そうにできるものだ。