色をなくした世界 (ページ39)

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そんな、黒田の手を松崎は持っていたハンカチで失血をする。意外にも優しいところはあるらしい。

「……今のは、なんだ？あれも、地盤沈下のせいだってのか！？りっぱな、ポルターガイストじゃねえか！」
「建物がゆがんだ音どころか。ぜったい、誰かが壁を叩く音だったわよ！」
「それにしちゃ、ハデすぎだがな。巨人でもいたんじゃねえのか？校舎を沈めてるのもそいつかもねえ」
「バッカバカしい！もう少しで、子供の冗談にひっかかるトコだったわ」
「せめて、俺たちだけでもしっかりしようぜ」

何も言わないナルをいいことに。この時ばかりだけは、仲良くナルを攻め立てて。松崎たちは、旧校舎の方へ行ってしまった。

『……！ナル、手が……』

黙って、旧校舎を眺めていたナルの手から血が滴り落ちていることに気がつく。さきほどの窓ガラスを割ったとき、怪我をしたのだろう。しかし、ナルは。

「ああ……たいしたことはない。すぐに、乾く」
『手当したほうがいいですよ』
「黒田さんをみてやれ。今は、ほうっておいてくれたほうがありがたい。自己嫌悪で吐き気がしそうだ」
「……」

ナルは、一度も振り返ることもせず行ってしまった。しかし、どうしてもナルが気になってしまい、ジョンへ黒田さんを託したあと、ナルの背を追いかけた。

ナルを追いかけると、やはりというべきか。ナルは傷の手当てをせずに、なにやら考え耽っていた。私は、少しため息を吐いてナルのそばへ近寄る。

「ほうっておいてくれと言ったはずだが？」

鋭い視線と冷淡な声が降り注がれる。うまく隠しても、感情の吐き出し口が分からないのだろう。どんなに、大人ぶっても彼も、まだ一七歳の子供なのだから。

『怪我をした人間を放っておくほど、冷めたくはないですから』

ポケットからハンカチを取り出した。私は半端強引に、ナルの腕を掴んで、怪我をした場合へハンカチで包む。お互いが口を開くことなく沈黙が続く。

「ナル……ナルは、何も間違ってないですよ」
「……」

筆談ではなく、はっきりと自分の声でナルへ自分の気持ちを告げる。ナルは、少しだけ驚いたようすでこちらを見た。