色をなくした世界 (ページ37)

今日:34 hit、昨日:8 hit、合計:5,922 hit

＊ページ37

そして、その書類を滝川へと渡した。

「なんだ？」
「水準測定器のグラフ。旧校舎は、ゆうべ一晩で最大○・二インチ以上、沈んでる」
「なにい！？」
「……地盤沈下だ」
「じゃあ、なに？あの怪現象の原因はそれだってワケ？」

ナルは、先ほどのグラフとは別に。ここ一帯が記された地図の紙を広げた。

「このあたり一帯は、湿地を埋めたててできた土地なんだ。チェックした井戸の数からすると、この学校の真下をかなり大きな水脈が通っているらしい。二つの井戸が、今も残っていたが水量の確認をしたら、両方とも、ほとんど枯れかけてた。……そういうことだ」
『つまり、湿地を埋めたてた場所だからもともと地盤が弱いということですか？』
「そういうことだ。そこに、枯れかけた地下水脈。そのせいで、地盤沈下がおきた。この激しいのが、この辺り。建物の一方が急速に沈んだせいで、あちらこちらにねじれ・・・やひずみ・・・ができてる」

ナルの話を聞いて、やっと理解できた。霊の気配も感じないのに、ひとりでに動くイス。だれもいない筈の天井から聞こえてきた足音。全ては、地盤沈下からきていたものだったのか。これを、分からないなんて。私も、まだまだだな。

「なんてこった……。じゃあ、イスが動いたのも屋根が落ちたりってな。そのせいなわけか」
「そう。あの教室は、西側の中が東川より三インチと低かった」
「三インチ。……七ｃｍ半てところか」
「じゃ、あのラップ音……」
「ラップ音じゃなくて、実際に建物がひずんでる音だろうな。旧校舎付近は、立ち入り禁止にしてもらったほうがいい。この建物は遠からず倒壊するだろう」

ナルは、あくまで冷静にそう告げた。ここまで、騒がせていた正体は、全て地盤沈下からきていたものだった。けど、果たして……地盤沈下だけなのだろうか。

＊

ナルの話を聞いたあと、撤退のため。旧校舎へ注ぎ込まれた、たくさんの機材の片付けをしていたとき。黒田が旧校舎へやってきた。そして、私たちが聞いたことを、そのまま黒田へ伝えると、黒田は金切り声をあげて否定した。

「……そんな。じゃあ、私が襲われたのは！？」
「……たぶん、君について来た浮遊霊のしわざだろうな」
「……霊はいるわ」
「いない。調査の結果も完全にシロだと出ている」
「あなたには、わからないだけかもしれないでしょ！？」
「では、君が除霊をすればいい。僕は、自分の仕事は終わったと判断した。だから、帰るだけだ」

ナルの冷静な返しに。とうとう、黒田は何も言い返すことができずに、黙り込んでしまった。