色をなくした世界 (ページ29)

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少しの時間が経った頃。玄関の方から賑やかな声と足音が聞こえてきた。廊下側の窓越しから視線を向ければ、松崎と滝川と。それから、校長に教頭がこちらへやって来るのが伺えた。ああ……真砂子達も来たのか。

「……」

昨日、宣言したとおり。松崎はこれから除霊をするのだろう。普段の化粧の濃さはいつも通りだが、長ったらしい髪をまとめて、白い着物と白い衣。緋色の袴姿をしていた。

私たちは松崎の除霊を見守るため。一階の下駄箱のところへ集まっていた。

「まあ。よく見てるのね。軽く、祓ってやるわよ」

得意げな表情を浮かべて、松崎は白木の祭壇の前へ立った。

「ほんとに、できんのかねえ。ま、見物ぐらいはしてみるか。ボウヤはどうする？」
「……神道式の除霊というのは、見たことがないな。見てみようか」

二人の会話を尻目で、私は松崎の方をじっと見つめた。松崎は、一度手を叩き、頭を下げる。

「つつしんでかんじょう、たてまつる、みやしろなき、このところに、こうりんちんざ、したまいて、しんぐうのはらい、かずかずかずかず、たいらけく、やすらけく、きこしめして、ねがうところを、かんのうのうじゅ、なさしめたまえ……」

だてに、巫女を名乗っているわけではなかったのか。ちゃんと祝詞を言えてる。しかし、祝詞が言えても彼女からは祓う力をあまり感じれない。現に、私が隠し持っている集めた一つの手駒が何の反応を示さない。やはり、張りぼては張りぼてでしかないか。

「これで、なんの心配はありませんわ」

考えごとをしていたためか、松崎の除霊はいつのまにか終わっていた。現に、儀式終わりの松崎は校長へ向けて愛想笑いを浮かべている。

「いやあ！お見事でした。なんというか、こう。まさに、神々しいという表現がぴったりで。どうですか。今夜、一席設けますが」
「いちおう除霊をしたあとは、泊まりこんで様子を見ますので」
「なるほど、さすがはプロですなあ。それでは、どこかでお昼でも……」

校長たちからの賛美の言葉を浴びながら、松崎は勝ち誇った笑みを浮かべて、こちらを見て来る。阿呆らしい。相手に、するだけ時間の無駄だ。松崎の視線を無視して、部屋を出ようとしたとき。ギッと嫌な音が天井から聞こえてきた。小さな音がだんだんと大きな音を立てて、外側の窓ガラスに小さな亀裂か走る。小さな亀裂は、波紋みたくどんどんと広がり。ついには、大きな音を立てて弾けるようにして割れた。