色をなくした世界 (ページ15)

今日:31 hit、昨日:8 hit、合計:5,919 hit

＊ページ15

綺麗な瞳に筋の通った綺麗な鼻筋。癖毛のない綺麗な黒髪。黙って居れば、一つの絵画を見て居る気分にさせられる。今だって、悩んでいる仕草さでさえ絵になっている程だ。

「……趣味は悪くないな」

容姿に関しては、確かに文句の付け所がないほど恐ろしく整っては居るし、恐らく頭が切れる。見た目も肩書きも、この年齢にしては凄い方だと思う。しかし、何故だろうか。彼の態度が酷く鼻に付く。このナルシストぷりが。今日から、彼の事をナルちゃんと呼ぼう。ナルシストのナルちゃん。

＊

使わなくなった機材やカメラ等を一通り片付け終えて、私達は
旧校舎の直ぐ側に止められたワゴンへ機材を運び込む。私は、''ナル''の指示に従いながら持ってきた機材を車内へ運び混んでいるとふとナルから名前を呼ばれた。

「蓮……。カメラを車に運び終えたら、この機材を運んでくれ」

彼が向ける目線の方へ視線を向ければ、後部座席にぎっちり詰まっている機材達の姿。

『これ、全部ですか？』
「必要なだけ全部」
『……こんなに沢山のもの渋谷さんだけで扱えるんですか？」
「当たり前だ。君とは頭の出来が違う。行くぞ」
『……中に入るんですか？』
「当たり前だ。心配しなくても1人では行かせやしない」

それだけを告げてナルは比較的軽い機材を私へ渡した後、旧校舎の方へ向けて歩き始めた。

＊

ナルと共に入った旧校舎の中は、夕暮れ時だった為なのか陽の光が微かにしか入り込まず薄暗く、何処か不気味な雰囲気を醸し出していた。

「……此処を使うか」

ナルは怯えた様子も無く淡々とした様子で、機材を置く適した教室を見つけると我が物顔で教室の中へ入り込む。ガシャと音を立てて重たい機材を古びた机へ置いた後、蓮の方へ視線を向ける。

「棚を組み立ててくれ。僕は機材を取って来る」
『分かりました』

コクリ一つ頷く私を見て、ナルは何も言わずにさっさと機材を取りに教室を出て行ってしまった。

「……」

気味の悪さを残した薄暗い教室と辺り一面から鳴り響く家鳴り。天井にこびり付いたシミ。何かが出そうな条件は全て整っているにも関わらず、、蓮には皆が噂する様な霊の気配は感じなかった。やっぱり、噂は唯の噂だったみたいで少しがっかりとする。

『もし、此処に悪霊が居たのであれば兵隊を増やす事ができたのに……』

『残念』ポツリと溢す。けれども、居ない者はしょうがない。どんなに願っても此処には霊の気配一つしない。『諦めて仕事に掛かるとしよう』私はナルから与えられた仕事をこなす為、棚を作り始めた。