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飽きる事の無い練馬女子高校生失踪事件がニュースが放送される中、私は一人朝食を取っていた。
「ねえ。……貴方は幸せなの？ 別に、今逃げても良いよ。閉じ込めてる訳でも縛ってる訳でもない。貴方が勝手に此処に居着いてるだけ。なんで、私の所に来たんだっけ？ ああ、お腹減ったの？ 私はこれから病院だよ。そのまま仕事に行くから遅くなる。……本当に、いつ逃げても良いんだからね」
食器を流し台へ片付けた後、私は一人襖へ話し掛ける。話し掛けたとしても筆談だから相手には伝わらないだろうけど。私は、テーブルに置いてあった帽子を手に取って、深く帽子を被ると家を出て病院へ向かった。
辿り着いた剛力病院で、私は主治医である剛力と診察を交えて話して居た。
「どうだ、蓮。眠れているか」
「落語聞きながら、寝るんだけど……もう覚えた」
「そりゃ、気の毒に」
「落語って、笑風亭呑楽師匠の？」
「そう。よく知ってるね」
側に付いていた白く美しく艶のあるアルパカ……もとい、此処の看護師の白川さんが話に入って来た。そして、ポケットからとある消しゴムを取り出す。
「私、呑楽消しゴム持ってるんだ」
「なんだ、それ？」
「いや、分からんないけど。段落師匠のオリジナル消しゴム……」
「何処にニーズがあるんだ。それ……」
「この世に一つしか流通してないんだってさ。凄いでしょ」
「そんなの、何で。貴女が待ってるの？」
世界に一つしか流通していない消しゴムを何故持っているのか。疑いの眼差しを白川さんへ向ける。白川さんは、一度ハイライトの無い瞳で遠くを見詰めるが、直ぐに貼り付けた笑顔を浮かべると、呑楽消しゴムを私のポケットへ仕舞い込んだ。
「差し上げます」
「……」
「呑楽の落語は、情景がスッと広がって聞き易いんだよな」
「そう？ お経より退屈だけど……」
「それだけ。無心になっても眠れないってよっぽどだね」
「……なあ、蓮。俺は、何に見える？」
「何、って。ゴリラ」
素直に告げれば、白川さんの上品な笑い声が静かな診察へ響き渡る。
「……まあ、合ってる」
少しだけ、落ち込んでいる剛力を片隅で今度は白川さんが話し掛けて来た。
「落語って、アプリとかで聞くの？」
「いや、カセットテープだよ」
「カセットテープ？」
「最近の子は、知らないんだよ。巻き戻しとか分かんないだって」
「へえ……」
戸惑う白川さんに助け舟を出す剛力。けれども、蓮は興味無さげに一言で済ませる。
「はあ……」
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作者名：クジラ大好きマン | 作成日時：2023年6月11日 23時
