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スマホから視線を外さず淡々と告げる乗客を呆れた眼差しで、ルームミラーから見詰める。世間で目立ってどうしたいんだか。
「しょうもない事に命賭けてるんだね」
「しょうもなくない。大事な事ですよ。いいねやフォロワーの数が、そいつの値段って言って良いくらい」
「ふーん」
乗客は、いいねやフォロワーが如何に大事な事を語り始め、どんな物が過去に流行ったのかを力強く語り始めた。止まる事を知らない乗客の話しを右から左へと受け流す。
「あっ。良い事思いついた！ 運転手さんが自撮りで俺とツーショットして下さいよ」
「……」
「無視しないでよ。良いから撮りましょうよ」
「それで、バズるの？」
「良いから、良いから。あっ。帽子は取って下さいね」
後部座席から手が伸びて帽子を取り上げられ、許可も無くスマホを向けられ、乗客は私とのツーショットの写真を撮った。
「写真撮ったんなら、帽子返してくれる？」
「お姉さん……女優かなんか？」
「？ ただのタクシードライバーだけど」
丁度信号が赤信号だった為、私は後部座席に座る乗客の方へ振り返って、私の帽子を持ったまま頬を赤く染めて惚ける乗客から帽子を取り返し、目元まで深く帽子を被り直した。後ろの席では、先程の乗客が小さな声音で、何かを呟いていたが気にする事なく運転を続けた。
目的地の練馬まで運転をし続けて数十分。長い車の長蛇を見付けた為、車間距離を保ちながら前車の後ろへ車を停めて、辺りを見渡すと道路の左端に検問と書かれた看板を見付ける。
「何？」
「警察の検問」
私は運転席の窓を開けて、此方へやって来る警察官の方へ視線を向ける。
「お急ぎの所、すみませんねー」
聞き覚えのある気だるげな声音と瓜二つの顔。双子のミーヤキャットの警官だ。
「なんだ。小戸川か」
「……お客さん乗せてるから手短でお願い」
「わーったよ」
眼鏡を掛けて居ない方の双子の兄である方が、胸元のポケットへ手を突っ込むと一つの写真を取り出した。
「この男を見なかった……か」
窓から身を乗り出して、深く被って居た帽子を上まで上げて写真を覗き込む。そんな、私の行動に大門兄は大袈裟なくらい身体をビク付かせる。
「……」
写真に写り込んで居たのは、何処か見覚えのあるゲラダヒヒ。この辺では、ゲラダヒヒは一匹しか居ない。けれども妙な話だ。
「不思議だね。君、この人と仲良しでしょ」
私のメモ用紙に書かれた言葉を見た瞬間。強く叩く音が車内へ響き渡り、大門兄の顔が直ぐ近くまで迫る。鋭い視線で私を睨み付けながら、私の耳元へ可愛いらしい唇を寄せる。
「便宜上聞いてんだ」
「……」
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作者名：クジラ大好きマン | 作成日時：2023年6月11日 23時
