変わり者の運転手 ページ5
車内の中で流れる無機質なラジオを子守唄代わりに聴きながら、座席を下げて、蓮は静かに眠りに就こうとして居た。
「……」
あの日以来。私は眠りに就く事が難しくなった。眠れても深い眠りに落ちる事は無くて、良く眠れても一時間程度で目が覚めてしまう。眠たいのに眠れない。これ程、きつい事は無かった。私は、欠伸を噛み締めながら座席を上げると助手席に置いてあったお茶の入ったペットボトル手に取って、お茶を飲む。今日は、もうこれ以上眠る事は出来ないな。コツンと窓に頭を付けて、車内から見える外の景色を見詰めながら、1人黄昏れていると窓をコンコンと叩く音が聞こえて来た。音がする方へ視線を向ければ、一人の樺の青年が佇んでいた。
「乗車良いですか？」
私は無言で頷き、後部座席のドアを自動で開ける。後部座席へ乗り込むお客に、私は筆談でありながらも目的地を訪ねる。
「どちらまで？」
声を出す事無く筆談で話す蓮を乗客は、一度訝しげな表情を浮かべたが、直ぐに私から興味を無くして持っていたスマホを忙しなく扱う。
「練馬」
此方へ視線を向ける事無く、無愛想な声音で目的地を告げる乗客を、少し感じが悪いなと考えながらも練馬へ向かう為、車を発進させた。私は、何時もの日課であるラジオを聞きながら車を走らせる。
「あの。考え事してるので、ラジオ止めてくれます？」
後部座席から聞こえて来る無愛想な声音。私は、一度だけ乗客の方へ視線を向けた後、ラジオのスイッチを切った。すると、ラジオを止めたのと同時で乗客が私へ話しかけて来た。
「……運転手さん。最近、なんか面白い事ありました？」
「……」
「無視かよ。それと、タイムオーバーだわ。其処まで興味あって聞いた訳じゃないぞってなって来るから。こっちの心理的に」
先程までは無口だった筈の乗客が饒舌になり始めた。一息つく事無く、話し込む乗客の話を片隅で運転の方へ集中をする。
「また、無視かよ。傷つくんだけど」
「無視しないでよ。ねえ、聞いてんの？」矢鱈絡んでくる乗客をしつこいと感じながらも、この乗客は私が相手をするまで、きっとしつこく絡んでくると確信した彼女は、運転しながらも器用にメモ用紙へ言葉を書き綴り、後頭部座席に座る乗客へメモ用紙を見せた。
「……なんで、面白いこと聞きたいの？」
「さっきから、何で筆談なのか凄く突っ込みたいけど……。まあ、何で聞くかって？ バズりたいんですよ」
「バズる……？」
あれ、バズるって言葉、お姉さん知らないの？ まあ良いや。要するに、SNSで沢山拡散されたいんです」
「なんで？」
「何でって……友達とかバズってるし」
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作者名：クジラ大好きマン | 作成日時：2023年6月11日 23時
