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「ダイエットでやってたら、実戦向きではないでしょ。付け焼き刃だよ」
「じゃあ、貴女は付け焼き刃のタクシードライバーって言われて腹たったないの」
「別に。ただ、仕事でやってるだけだから。どう呼ばれても良いよ。それよりも、仕事とカポエイラは関係ないよ。私は、別に付け焼き刃のナースって言ってる訳でもないし」
「所で、なんなの。付け焼き刃って」
「意味もわからず怒ってたの？」
「ニュアンスで大体は分かるけど、もっと分かりやすい言葉を使ってよ」
「にわか仕込とかそんなんだよ」
「誰がにわか仕込のナースよ！」
声を張り上げて怒る白川さん。最初、出会った時は掴みにくい人だと思ったけど、よくコロコロ表情の変わる人だ。
「言ってないし。同じベクトルで良く二度も怒れるね」
そう言えば、白川さんは先程騒いでたのが嘘の様に静かになり、ゆっくり腰を上げてベンチから立ち上がると、先程の動きをし始めた。私に技を掛けるつもりか。
「ケイシャーダはやめてね」
白川さんも白川さんだが、蓮も何処かずれて居た。
「だから、こうして会うのも危険なの。白川さんにとって」
先程の戯れ合って居たのが嘘かの様に真面目な話をする。けれども、白川さんは何処か納得して居無い様子が見られる。
「関係ないよ。私は、大人なんだし。自分の身は自分で守れる」
ここ迄、言っても私から離れたがら無い白川さん。何が、彼女をそんなにまで突き動かすのか。
「……何が目的なの？」
「何が？」
「私と会っても、白川さんには何のメリットがあるの？」
「……迷惑？」
眉を下げて悲しげな表情を浮かべる白川さんを見て、私は何とも言え無い感情に囚われる。
「偶にこうして合って話したり、連絡取ったりするだけでも……迷惑……ですか？」
そっと指を絡める様にして手を掴む。
「小戸川さん……ううん。蓮ちゃんと一緒に居ると落ち着くの」
憂いを帯び、濡れた白川さんの美しい宝石の様な青い瞳がじっと此方を見詰める。何か言いたげな瞳と繋いで無い方の手が、私の頬を優しく撫でる。
「蓮ちゃん……」
白川さんから甘い声が囁かれる。白川さんの滑らかで白く美しい手が、私の頬を優しく撫でる度、ピクッと身体が反応してしまう。何とも言い難いただならぬ雰囲気の中、一つの着信音が静かな公園に響き渡る。
「……」
着信音が鳴った事で、白川さんは私から手を離すと持って居た鞄の中からスマホを取り出す。
「……今日は、日勤だから帰らないと」
「……送って行くよ」
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作者名：クジラ大好きマン | 作成日時：2023年6月11日 23時
