壊れていたのは…… (ページ19)

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「おーなんか良さげじゃないですか！？早速買って来ます！」

渡したメモ用紙を持って駆け足で走って行く今井を見送った後、後部座席のドアを閉めて、ぼんやりと空に浮かぶ星空を人知れず眺める。そんな時、コンコンと窓ガラスを叩く音が聞こえて来た。

「すいません、休憩中。乗れますか？」
「良いですよ。どちらまで？」

頷いて後部座席のドアを開けてお客さんが乗客するのを待った。

乗客を乗せてタクシーを発進させて約数十分。車内の中は静かさと気不味い雰囲気だけが漂って居た。乗客同士、お互いが口を開く事なくスマホを見詰めて居た時、一匹の馬が猪へ話し掛けた。

「……何見てるん？」
「なんか、収録のネタになる様な物ないかな思て」
「へー。勉強熱心やな」
「……見てみ。こういうの腹立たへん？」
「あー。分かるわー。普通に、その音楽聴きたいのにな」
「偶に感動する奴あるけどな」
「どっ、どないやねん！感動するやつあるんかい！？」
「遅いって」

大声で急なツッコミに五月蝿さを感じながらも無言を貫く。この二人はお笑い芸人か何かなのだろうか。妙に聞き覚えのある声だ。

「お前さあ。去年のＮ－１でイルミネーションが決戦行った時、おめでとうって連絡入れたらしいやん。それ本気で思うたん？」
「？当たり前やん。めっちゃ嬉しかったし、頑張れば結果的に出るんやなって思ったし……」
「頭可笑しいんか、お前」

不穏な空気が車内の中で漂う。

「後輩やろうが先輩やろうが結果出した同業を祝福すんな。SNSで同業の告知を手伝うな。家で物に当たるくらい悔しがれ。媚びるな。雲の上にいる様な大御所から何者でも無いペーパーまで全員敵や。面白いと思っても感心するな。同業のファン全員掻っ攫うくらいのエゴイストになれ」

真剣な表情で隣に座る相方を叱り注意する。話の一連を聞いて居た蓮は、彼が本気でお笑いを愛してる事も本気で売れたいと思う気持ちがひしひしと伝わって来る。

「俺やったら、ほんまに凄いと思ったら、のこのこ挨拶なんか行かれへん。拳握り締めて、歯軋りしながら走って帰る」
「……」
「ほんで、お前。さっきから何やってんねん」
「えっ？ああ。これな、ズーデン」
「ズーデン？」
「スマホのゲーム。めっちゃハマってんねんこれ。動物育てたりしてランキング上げんねんけど」
「ちょちょちょ。名前、そのまんまホモサピ馬場やし。写真載っけてるし。芸人の自覚無いんか」

馬の動物。もとい、馬場の芸能人への自覚無しを咎める。