エレジーは嫌い【短編集】

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そいつはもうすっかり恋人ヅラで、先輩後輩とかいうくだらない上下関係は取っ払ってしまったらしい。まぁ、私もそれでいいと思うけれど。



「…あ！」
『ちょ、うるさ。急にどうしたの』
「アイス！」


直樹くんの大きな声で、ゆったりとした甘い空気は簡単に壊された。
コンビニのビニール袋を落ち着きなく漁って、中から細長い袋を取り出した。


「うわ、溶けちゃってる」
『ははは』
「マジで最悪なんだけど」
『ふふ、そうだね』
「ははは、ねぇ何で笑えんの？」
『直樹くんも笑ってるじゃん』
「はは、あー、もう最悪」
『一緒に買いに行く？』
「え、行ってくれるんですか？」
『行くよ』
「マジ？え、行こ、行きましょ」
『ちょっと待って笑』
「早く！急いで！」
『そんな急かさなくてもいいじゃん笑』
「ほらほらほら、行きますよ」



一足早く準備を終えた直樹くんが、玄関でにこにこと手を差し伸べる。

その手を取って、適当なサンダルに足を突っかけて、二人で夜の街へ飛び出す。




固く手を取り合って、できるだけ長く、つながったままでいられるように。


「バニラ系にする？それかチョコ系？フルーツ系？」
『えー迷っちゃうな、直樹くんは？』
「えー、俺も全部食べたい」
『ははは、なんだそれ』



人は、こんな夜のことを幸せと呼ぶのかもしれない。





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