チョコレートコスモス / K.Takahira ページ44
Kuruma side.
·
本当に、この人はいつになったら学習するんだろう。
騒がしい居酒屋、机の上にたくさん並んでいたお皿はもうほとんど片づけられて、Aさんは思いっきり寝てしまっていた。
頻繁に飲みに誘ってくれて、それはありがたいんだけど、毎回こうだとさすがに呆れる。
3杯目のビールで潰れて突っ伏しているAさんを見る。いつも同じ。いつも3杯目。ここまで正確なことある?と、逆に思ったりする。
Aさんはいつも無駄に元気で、自分の限界を知らずに3杯目まで勢いよく飲み干す。そして、少ししてから酔いが回ってきて、睡魔に襲われて、沈む。いつもそう。いつもそういう流れ。
どうしたもんかなぁ、と思いながら、俺もAさんと同じ3杯目のビールを飲み干す。無防備に向けられたつむじをぼうっと眺めて、Aさーん、と声をかけてみたりする。もちろん、深い深いところにいるAさんに届くわけがない。それもいつものこと。
『…あ、すみません。お会計で』
今日もまた、酔い潰れた先輩のために後輩の俺がお金を出す。
別に、お金を出すことを不満に思っているわけではない。むしろ、意外と律儀なAさんの方から“ごめん!お金返す!”って連絡してきてくれるのを密かに楽しみにしていたりする。
ただ俺は、不用心すぎるAさんに腹を立てているだけ。
ねぇ、Aさん。Aさんって他の人と飲むときもこんななの?俺以外にもこうなの?
『Aさん、帰りますよ』
一応、声をかけてみる。
「……かえりたく、ないなぁ」
『え?』
すっかり寝てしまっていると思ってた。いつもは何も返ってこないのに。
『帰りたくないんですか?』
「…うん、かえりたくない」
呂律の回っていない声で、小さくそう言った。
それは、いつも元気なAさんが、俺にはじめて見せた弱みだった。
ずっと、ずっとずっとずっと。
俺には勇気がないから。
酔い潰れたAさんの介抱係を忠実に務めてきた。
Aさんの家の前までタクシーで送って、寝ぼけているAさんを部屋に押し込んで、おやすみなさい、とドアを閉める。
ずっと、ずっとそうしてきた。
机に突っ伏しているAさんをじっと見る。
今日は。
今日くらいは、帰りたくないなら、帰らなきゃいいよ。
これが決して褒められた行動でないことはわかっているけれど。
もう、頭の中には1つしか残されていなかった。
·
437人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ぐり - 初めまして!雰囲気が好きですべて一気読みさせてもらいました🥹マユリカ阪本さんのお話読みたいです。時間がありましたらぜひお願いします(^^)v (5月11日 13時) (レス) id: 0e2050f731 (このIDを非表示/違反報告)
とこ(プロフ) - いつもにやにやしながら読ませて頂いてます! リクエストなのですが、ヤーレンズの出井さんのお話お願いできませんでしょうか??哀さんのペースで大丈夫なのでよろしくお願い致します! (2023年4月22日 22時) (レス) id: 6bae7fb429 (このIDを非表示/違反報告)
まゆゆん - 哀さん» こちらこそありがとうございました!素敵なお話でした✨ (2023年4月9日 11時) (レス) @page42 id: 4336aaf71d (このIDを非表示/違反報告)
哀(プロフ) - まゆゆんさん» リクエストをいただいていた多田さんのお話を公開しました。コメントを読み違えてしまい、彼女設定ではありません。申し訳ございません🙇🏻♂️リクエストありがとうございました! (2023年4月9日 9時) (レス) id: 8ce96fbb9e (このIDを非表示/違反報告)
P-398(プロフ) - リクエストです!D.Shibaさんの恋人だった主人公が事故で亡くなってしまう話を(死ネタ不可でなければ)お願いします! (2023年3月17日 17時) (レス) id: 2cc94b219c (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:哀 | 作成日時:2022年5月5日 10時