エレジーは嫌い【短編集】

ニアリーイコール / H.Terada * ページ33

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前作より、「偶像という虚像が呼ぶ結実」の続編です。



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地下にしては珍しく時間帯が早めのライブが終わって、劇場から帰る途中、あー、あの喫茶店行ってみたいんだよねー と何気なく言ってみたら、じゃあ行ってみる？なんてさらっと言うから驚いた。

寺田さんに話しかける度に緊張していた頃が懐かしく思えるほど、今では自然に喋れるようになったし、どこかぎこちなかったタメ口もかなり馴染んできた。


向かいに座った寺田さんはミックスジュースを頼んで、私はホットコーヒーを頼んだ。なんか雰囲気は逆な気がするけれど、寺田さんはカフェインに弱い。そういうことも教えてもらった。寺田さんと、近くなったから。


「アイドル楽曲ってほんとに、1つの音楽としてすごくレベルが高いなと思ってて」
『うん』
「例えばこの曲とか…」


スマホの画面をこちらに向けて、ぐっ、と身体を前のめりにして話してくれる。アイドルへの熱量はやっぱり変わらないみたいで、寺田さんとの会話のうち7割くらいはアイドルの話題だから、自然と私も詳しくなった。


『寺田さん、』
「ん？」

『いつか一緒にライブとか行けたらいいね、アイドルの』


ストローを咥えたまま、ぱちぱちと瞬きをしてこちらを見ている。


「ほんと？」


切れ長の目を細くして、嬉しそう。寺田さんの周りに音符が飛んでいるように見える。


「Aさんがそんなこと言ってくれるなんて嬉しいなぁ」
『私もだいぶ詳しくなってきたんでねー、誰かのおかげで』
「…俺か、笑」
『それ以外ないでしょ笑』
「そっか。うん、そうだね。いっぱい喋ったもんね」
『それだけ一緒にいるってことですね』
「なんか、仲良くなれたね、ほんとに」


“なんか、仲良くなれそうな気がして”


寺田さんにそう言ってもらった日のこと、ちゃんと覚えてる。
あの日からかもしれない。私と寺田さんの関係が、大きく変わったのは。


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