ふたりなら / D.Shiba * ページ22
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『どっか、遠いところに行きたいな』
「なに、急に」
『いや、ちょっと思っただけです』
「疲れてんの?」
『そういうわけじゃないんだけど』
「疲れてるんなら言いなよ」
2人で借りたアパート。
狭いベランダに出て一緒に夜風にあたるこのときが、私の一番お気に入りの時間だったりする。
『ふふ、やさしいですね』
「まぁ、そりゃ」
そう言って、照れくさそうに頭を搔く。
ぶっきらぼうだけど、笑顔がかわいくて、頼もしくて、そんな年上の恋人。私にはもったいないくらいの、素敵なひと。
『結構涼しくなってきましたねえ』
「ちょっと寒いくらいだわ」
『夜は特にね』
「あー、さみ」
『そろそろ中入ります?』
「ああ、いや、そういうんじゃなくて」
『忙しいんだから、風邪引いたら大変ですし』
「いや、うーん」
『ん?』
腕を組んで身体を縮こませ、寒そうにしている。けれど、中には入りたくないらしい。
眉間に浅いしわを寄せて何か悩んでいるその人を見て、すこしうれしくなる。長い時間一緒に過ごすようになってから、たくさん“はじめて”の表情を見つけることができてたのしい。
『どうしたんですか、しわなんか寄せちゃって』
「どうしようかと思って」
『なにが?』
「言ったら、かっこ悪いって思われるかもしれないし」
『なに、何にもわかんないんだけど笑』
「だからね、寒いの、俺」
『うん』
「寒いってことは、どういうこと?」
『あったまりたい?』
「そう。だから?」
『…だから?』
「だから、こういうこと」
大きな手が私の手首を掴んで、いとも簡単に引き寄せられる。
気づいたときには大輔さんの胸の中にいて、大輔さんの腕はしっかりと私を包んでいた。
『はは、たしかに、あったかいですね』
「ね」
『はっきり言えばいいのに、ハグしたいって』
「言えないでしょそんなの」
『なに、照れてるんですか』
「そういうんじゃないけど」
顔は見えないけれど、きっとまた“はじめて”の表情をしているのだろう。照れている大輔さんの顔。想像して、すこし笑みがこぼれてしまった。
かわいいですね、なんて言ったら、たぶん怒るんだろうな。
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ぐり - 初めまして!雰囲気が好きですべて一気読みさせてもらいました🥹マユリカ阪本さんのお話読みたいです。時間がありましたらぜひお願いします(^^)v (2023年5月11日 13時) (レス) id: 0e2050f731 (このIDを非表示/違反報告)
とこ(プロフ) - いつもにやにやしながら読ませて頂いてます! リクエストなのですが、ヤーレンズの出井さんのお話お願いできませんでしょうか??哀さんのペースで大丈夫なのでよろしくお願い致します! (2023年4月22日 22時) (レス) id: 6bae7fb429 (このIDを非表示/違反報告)
まゆゆん - 哀さん» こちらこそありがとうございました!素敵なお話でした✨ (2023年4月9日 11時) (レス) @page42 id: 4336aaf71d (このIDを非表示/違反報告)
哀(プロフ) - まゆゆんさん» リクエストをいただいていた多田さんのお話を公開しました。コメントを読み違えてしまい、彼女設定ではありません。申し訳ございません🙇🏻♂️リクエストありがとうございました! (2023年4月9日 9時) (レス) id: 8ce96fbb9e (このIDを非表示/違反報告)
P-398(プロフ) - リクエストです!D.Shibaさんの恋人だった主人公が事故で亡くなってしまう話を(死ネタ不可でなければ)お願いします! (2023年3月17日 17時) (レス) id: 2cc94b219c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:哀 | 作成日時:2022年5月5日 10時