エレジーは嫌い【短編集】

きちんと結ばる / J.Kujo ページ3

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壁に掛かった時計から、ピピ、と機械的な音がする。どうやら0時を回ったらしい。
隣には、つまらなそうな顔でテレビを見る後輩。


『帰らんでええの？』
「大丈夫です」
『そっか』


画面の中のカラフルで賑やかな世界と、画面の外の気味が悪いくらいに静かなワンルーム。私の部屋に九条がいる異物感は、まだ消えない。


『いつから、こんなんやっけ』
「こんなんって？」
『九条が、私の家に来るようになったん、いつやっけ』
「いつかなぁ、半年くらい前？」
『もうそんなにか』
「まだ半年か、とも言えますけど」
『もう、やろ。さすがに』
「そうですかね」

『何でさ、うちに来るの？』
「……え、嫌でした？」
『いや、全然、そういう意味じゃなくて。普通に疑問』
「それはまぁ、そんなに深い意味は無いです」
『はー、わからん』



"家、行ってもいいですか"

半年前、居酒屋で飲んだあと、九条が遠慮がちに口にした言葉。遠慮がちに言ったことにしては内容が突飛すぎるけど、かなり酔っていた私は、考えなしに彼を家に上げた。

それからというもの、居心地がいいからとか何とか言って、九条は月に2、3回うちへ来るようになった。だいたい夜中にやって来て、お酒を飲んで喋って気づいたら寝てる、というような無駄な時間を過ごして、朝には部屋を出る。


付き合っているわけでもなければ、特段仲が良いわけでもない。それなのに、こんな宙ぶらりんの関係がよく半年も続いているなぁと思う。



「あ、なくなった」


空になったビールの缶を振り、不満げな顔をする。

『あー、ごめん。もう予備ないねんよな。買ってこよか？』
「いや、大丈夫です」
『私のももうちょっとでなくなりそうやし、買ってくるで』
「いや、ほんまに」


立ち上がって身支度をしようとした私の手首を、柔らかく掴んだ。


『え、何？』
「すみません、でも、ちょっと」
『どうしたん？』
「行ってほしくなくて」
『はは、なにそれ』


そんなことを言われたら私も行く気がなくなって、九条の隣に座り直す。破天荒な芸風をしているのに、私の前ではやけに可愛い。



『もっとそうやってしてたら可愛がられるのに』
「え？」
『ううん、なんでもない』



今 私に見せているみたいに、素直で健気に振る舞っていたら、もっとうまく生きられそうなのに。



そう思ったけれど、素直で健気なくじょうくん、は私だけのものにしておきたくて、口にするのはやめた。




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