きみは籠のなか / K.Takahira * ページ16
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思ってたより遅くなっちゃったなあ。
こんなはずじゃなかったのに、と後悔しながら、早歩きで自宅を目指す。
日付けが変わるまでにはたぶん帰れるよ、と言ったけれど、もう日をまたいで数分が過ぎてしまっている。あとどれくらいで着くかな。10分ぐらい?いつもこうやって頑張って歩いて帰ってるんだから、今日くらいはタクシーに乗ればよかったかもしれない。
ひとりならこんなに急ぐこともなく自分の勝手にできるのに、ふたりだとこういう時にややこしい。
じゃあ起きて待っとこー、と嬉しそうに言った今朝のそいつの顔が罪悪感と一緒に浮かびあがってきて、自然と歩みが速くなる。
ゆっくり玄関のドアを開けると、リビングから光が差してきた。
もしかしたらもう寝ているかもしれないし。できるだけ足音を殺して静かにリビングまで進むと、直樹くんはテレビをつけたまま、ソファーの上で足を投げ出して横になり寝てしまっていた。
ずっと私の帰りを待っていてくれたんだろうなあ、と思うと申し訳なくて、せめてもの罪滅ぼしをするためにベッドから掛け布団を運ぶ。
『ごめんね』
これは返事のない自己満足。
直樹くんの寝顔を眺めながらそっと布団をかけてあげる。
『ん!?』
一瞬、何が起こったのかわからなかった。
寝ていると思っていた直樹くんは私の手を強く引っ張り、気づいたときには唇が塞がれてしまっていた。そのまま不行儀に舌が入り込んできて、ほんとうにこの人は何を考えているかわからないな、と思う。そういう掴みどころがない雰囲気に惹かれてしまったのも事実だけれど。
「遅かったね」
『ごめんなさい』
「何してたの」
『思ってたより飲み会が長引いちゃって』
「それ、途中で抜けらんないわけ?」
『結構偉い人もいたから…ごめんね』
「俺、ずっと待ってたよ、ここで」
眉尻をすこし下げて、悲しそうな顔をする。
手首はしっかりと掴んだままで、しっかりと力強かった。
「心配してたんだからね」
『うん、ごめん』
「わかってないでしょ、俺がどんだけ心配してたか」
『…ごめん』
「もうだめ、許せない」
『え?』
「俺ばっかり好きみたいじゃん、なんか」
『そんなことないよ』
私だって、直樹くんがいない夜は寂しいし、不安になる。
ひとりでの生活もだいぶ長くやってきたつもりだったけれど、直樹くんと過ごすようになってからめっきり耐性がなくなってしまった。
直樹くんのせいで、私はすっかり弱くなった。
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ぐり - 初めまして!雰囲気が好きですべて一気読みさせてもらいました🥹マユリカ阪本さんのお話読みたいです。時間がありましたらぜひお願いします(^^)v (5月11日 13時) (レス) id: 0e2050f731 (このIDを非表示/違反報告)
とこ(プロフ) - いつもにやにやしながら読ませて頂いてます! リクエストなのですが、ヤーレンズの出井さんのお話お願いできませんでしょうか??哀さんのペースで大丈夫なのでよろしくお願い致します! (2023年4月22日 22時) (レス) id: 6bae7fb429 (このIDを非表示/違反報告)
まゆゆん - 哀さん» こちらこそありがとうございました!素敵なお話でした✨ (2023年4月9日 11時) (レス) @page42 id: 4336aaf71d (このIDを非表示/違反報告)
哀(プロフ) - まゆゆんさん» リクエストをいただいていた多田さんのお話を公開しました。コメントを読み違えてしまい、彼女設定ではありません。申し訳ございません🙇🏻♂️リクエストありがとうございました! (2023年4月9日 9時) (レス) id: 8ce96fbb9e (このIDを非表示/違反報告)
P-398(プロフ) - リクエストです!D.Shibaさんの恋人だった主人公が事故で亡くなってしまう話を(死ネタ不可でなければ)お願いします! (2023年3月17日 17時) (レス) id: 2cc94b219c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:哀 | 作成日時:2022年5月5日 10時