雪解け / K.Tsuji * ページ26
·
「なぁ、ほんまに戻る気ないん？」
『…うん、残念やけど』
「そうかぁ、残念やなぁ」
皓平さんの家のソファに腰掛けて、必要最低限の言葉を交わす。
隣、と言うには不自然な間隔を空けて、皓平さんも座っている。
限界まで身体を寄せて 笑いあい、語りあい、小っ恥ずかしくなるような愛の言葉を囁きあう。そんな日々は、もう遠い昔のことのように思えた。
きっかけは些細なことだった。賞レース決勝進出をきっかけに、“人気急上昇中”と謳われて全国区での仕事も増え、忙しくしている彼との生活に、私がついていけなくなってしまった。
“ファイナリスト”は名誉で喜ばしいことだが、こうした小さな歪みも生み出してしまうというのは、はじめて知った。
「俺、Aのためなら時間作るで」
『時間作るって言っても、スケジュール決めるのは皓平さんじゃないやん』
「そうやけど」
『無責任やわ、ほんまに』
あの頃より確実に知名度が上がり、女の子にもチヤホヤされるようになったその人の横顔は、あの頃と何も変わっていなかった。すこしだけ安心した。
「…じゃあさ、今日、何で来てくれたん？」
今ここに私がいるのは、久しぶりに皓平さんから電話が入ったからだった。
“今晩うちに来てくれへん？”
感情のこもっていない声でそう言われ、私はそれを事務作業のように承諾した。
目的はあえて聞かなかったが、まぁこんなことだろうと思っていた。私から別れを切り出したときも、彼はずいぶんと諦めが悪かった。
『何でやろ、まぁ、やることなくて暇やったし』
「ほんま、そういうとこ嫌いやわ」
『嫌な女やと思った？』
「思ったよ。俺のこと弄んで。」
『それなら、』
「でも、もう そういうとこも全部好きになってもうたから」
相変わらず、何を考えているか分からない人だ。表情も声のトーンも全く変えずに、少女漫画みたいなセリフを平然と言ってのける。
「あかんねん、俺。Aやないと」
そんなことを言いながら真っ直ぐ見つめられたら、さすがの私も気圧される。
何も言い返すことができないまま、ただ時間だけが流れていった。
·
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 282人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
哀(プロフ) - ミサキさん» こちらのリクエスト作品を続編の方で公開させていただきました！ありがとうございました🙇🏻♂️ (2022年7月2日 10時) (
レス) id: 0fa5c6ec0e (このIDを非表示/違反報告)
ミサキ - 了解です！待ってます！ (2022年4月25日 1時) (レス) id: 1fece32f94 (このIDを非表示/違反報告)
哀(プロフ) - ミサキさん» リクエストありがとうございます🙇🏻♂️あと少しでこちらの作品の話数が上限に達してしまうので、続編(？)にはなってしまうかもしれませんが書かせていただきます！ (2022年4月22日 18時) (レス) id: 924204f01f (このIDを非表示/違反報告)
ミサキ - またリクいいですか？スカチャンのヤジマリーさんで、楽屋で飲み物をお互い飲んだら何故か入れ替わってしまって、入れ替わった状態でネタをした。ネタが終わったあと、ヤジマリーさんの相方の宮本さんに説明して、どうしたらいいのか、考えて最終的に戻る話お願いします (2022年4月20日 0時) (レス) id: 1fece32f94 (このIDを非表示/違反報告)
ミサキ - うひゃー！嬉しい！ありがとうございます！ (2022年4月20日 0時) (レス) @page48 id: 1fece32f94 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：哀 | 作成日時：2022年1月29日 18時
