きみの願いが叶うなら (ページ10)

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夢心地ページ10

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はじめて話しかけてもらった日以降、ネタ終わりに舞台袖で必ず話しかけてくれるようになった。
たいてい袖から楽屋までの短い時間だけだったけれど、時にはそのまま楽屋で話し込むこともあった。

漫才劇場での和牛さんの出番は全てメモをして、観に行ける日は自分の出番がなくても楽屋に足を運び、袖からその姿を眺めた。

そうして会話を重ねていくうちに、一緒にご飯に行くことになった。

『まさか川西さんとご飯に行く日がくるなんて…』
川「そんなに？笑」
『そんなにですよ、生きてるうちは無理やと思ってました』
川「逆に死んでから行ける可能性あるんや」

川西さんが連れてきてくださったのは、個室のある落ち着いた居酒屋。

川「好きなもん言って」
『いえ、川西さんが好きな物は私も好きなので…』
川「ほんまに？笑」
『ほんまに』
川「じゃあカニ味噌は？」
『…今後好きになる予定があります』
川「無理せんでええよ笑」

遠慮せんと、ほら。

そう言って、お品書きをこちらに渡してくれた。
私がこれどうですか？と聞くと、全てにええやんと言ってくれた。本当に全部好きなのか、優しさなのかはわからなかった。

川「…なんか、女の子と二人でご飯とか久々やわ」
『嘘つかんでいいっすよ』
川「こんなしょうもない嘘つかんよ笑」
『曜日毎に彼女おるでしょ？』
川「俺のこと何やと思ってる？笑」
『すみません調子乗りました』
川「ふふ、だいぶ慣れたね」
『…たしかに』

川西さんにこんなボケまでかませるようになった。素晴らしい進歩だ。

川「そんなん言うてるAちゃんこそ、曜日毎に彼氏おるんちゃうん？」
『おるわけないでしょ、ゼロですゼロ笑』
川「はは、一緒や」
『ちょっと、一緒にせんとってください』
川「何でよ、独り身同士仲良く飲も」
『二十代の独り身と三十代の独り身を一緒にせんとってください』
川「ほんまにシンプルに刺さること言うやん」

目を細くして笑って、ビールを飲んでいる。その様子を見ていると、川西さんも私と同じように血の通った人間なのだと思うけれど、まだすこし現実味が無かった。

川「…え？何してんの？」
『いや、夢かと思って』

自分の指で自分の頬をつねる。こんなのでわかるわけあるか、と馬鹿にしていたけれど、これくらいしか方法が思いつかなかった。

川「はは、夢ちゃうよ」

その笑顔があまりに綺麗で、余計夢に思えた。

さらに強い力でグッと引っ張る。

『痛、』

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