また ページ29
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外に出ると、柔らかな風が吹いてきた。
『今日は本当にありがとうございました、ご飯代も払っていただいて…』
川「こっちこそありがとう。服、気に入ったわ」
『よかったです』
川「家、難波やっけ?」
『はい、そうです』
川「じゃあ送るわ」
『いえそんな、一人で帰りますよ』
川「夜に女の子を一人で帰らすなんてできひんよ」
『…じゃあ、お願いします』
川「うん」
俺も、難波のホテルに泊まるから。
私が気を遣わないように、川西さんは優しくそう言った。
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川「もうこんな時間か、遅くまでごめんな」
なんば駅で電車を降り、ここで大丈夫です、と言ったけれど、家まで送ると言って聞かなかった。
『いえいえ、めっちゃ楽しかったです』
川「俺も、楽しかったよ」
川西さんの腕時計の針は、午後十時を通り過ぎたらしい。
『あー…すごい、幸せな一日でした』
川「ほんまに?よかった」
『川西さんとこんなに長い時間一緒におるなんて、はじめてやったんで』
川「あぁ、たしかにそうかもな」
『長かったみたいで、あっという間でしたけど』
川「そうやなぁ、あっという間やったわ」
『あっという間でしたか』
川「うん」
ほんとに思ってくれているのかどうかは知らないが、建前だとしても、そう言ってもらえるだけで充分だった。
川「また一緒に服見に行こ。次はAちゃんの服買おうよ」
『じゃあ今度は私が川西さんに選んでもらおかな』
川「次までにファッションのこと調べとくわ笑」
『お願いします笑』
実現するのかわからない“次”を想像するだけで、幸せだった。
そして、もうすぐ家に辿り着いてしまうという現実に、背を向けたかった。
あと何時間でも、このままでいたい。
この空間に川西さんと私の二人だけがいて、二人で話して、二人で笑う、そんな時間がいとおしい。
それはきっと、永遠でないからこそいとおしいのだろうと、どこかでわかっている。
それでも、今をやめたくなかった。
『…では』
白いマンションの下に、立ち止まる。
川「では。」
私に微笑みかける姿を見て、なぜか泣きそうになる。
さよならなんて絶対にしたくなかったけれど、しなくてはならない。
川「またね、」
『はい、また』
手を振ると、その骨ばった手を振り返してくれた。
“また”と言ってくれたことに、少し心が救われる。
川「おやすみ。」
『おやすみなさい』
川西さんの背中が、夜に溶けていった。
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ぴの - お返事ありがとうございます!遅くなってしまって申し訳ないです😢えぇほんとですか嬉しいです(T-T)期待しています笑続編も嬉しかったです😢♡これからも更新楽しみにしています☺️頑張ってください! (2022年2月18日 23時) (レス) id: 07f35b63aa (このIDを非表示/違反報告)
哀(プロフ) - ぴのさん» 温かいお言葉をありがとうございます( _ _ )!結末についてはお話できませんが、これからも変わらず読み続けていただけると嬉しいです🤍くるまさんメインの作品についても考えてみようとおもいます。今後ともよろしくお願いいたします! (2022年1月22日 2時) (レス) id: c39e85b81e (このIDを非表示/違反報告)
ぴの - (続き)いつかくるまくんメインの作品も見てみたいです。これからも更新楽しみにしています。頑張ってください。 (2022年1月15日 0時) (レス) id: 07f35b63aa (このIDを非表示/違反報告)
ぴの - 初めまして。いつも楽しんで拝見しています。作中の芸人さんで特別応援してる方はいなかったのですが、主様が書かれるくるまくんが素敵すぎて令ロのことが好きになりました笑。名前の出順的にくるまくんは報われないのかななんて思い少し悲しいです(TT)笑 (2022年1月15日 0時) (レス) id: 07f35b63aa (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:哀 | 作成日時:2021年7月23日 16時