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「苗字さんってやっぱり地味っすよね。」




そんな遥輝の一言に、外野のほうから歩いてくる彼女へ視線を送る。THE眼鏡っていう眼鏡をかけて、真っ黒い髪はキツく一つ結びかお団子で、化粧っ気もあんまりない。極め付けは愛想もない。

でも実は、笑顔が多くて、子どもやお年寄りに優しくできるっていうことを俺は知ってる。




「まあ仕事きっちりしとるけん、ええやろ。」
「いやまあそうっすけど…。元は悪くなさそうやし、もうちょっとどうにかならんかなあ。」




ゴロン、と転がってストレッチをする遥輝の横で、俺も入念にストレッチを行う。視線は彼女に向けたまま。




「あ、」




それは一瞬の出来事で。
危ないという声と、ガシャンという物が落ちる音がグランドに響く。
バッティング練習中のボールが、剛をインタビューしていたアナウンサーの方に飛んでいって、驚いた新人っぽいアナウンサーの子が腰を抜かしてしまった。




「え?なんすか?当たったんすか?」
「いや、あの子には当たっとらんと思うけど、」




ボールが当たったのは、おそらく苗字さんの腕で、
みんなからは見えなかったのか人だかりはアナウンサーのほうにできていた。
苗字さんはというと、落としたカゴにスプレーを戻して、右手をかばうように持ち上げ、何事にもなかったかのようにベンチ裏へと足を進める。




「苗字さん、」
『…中島選手、どうされましたか?』





ベンチ裏で道具整理を行っているところに、後ろから声をかければ少し驚いたような顔。





「腕、さっきボールぶつかったやろ?」
『え?』
「医務室行ったほうがいい。あの打球やったら何かあるかもしれんし。」
『や、でもまだ仕事が、』




煮え切ら無い返事しか返ってこないことにムカついて、苗字さんの手首を掴んでそのまま医務室へ。





『どういう組み合わせ?珍しいな。笑』
「先生、腕に打球あたったけん見てやって。」
『え、大丈夫?ここ座って、腕が見るから。』




医務室にいたトレーナーさんに、練習戻っていいと言われた俺は、どうしたらいいかわからない様子の苗字さんを託してグラウンドへと戻った。

後でトレーナーさんに聞くと、折れてはないもののかなり腫れているらしく、しばらく重いものは持ったりはしないほうがいいらしい。だいぶ落ち込んでたから、会ったら声かけてやってな、と言われた。そう、トレーナーさんに言われたから、




だから俺は今、苗字さんのホテルの部屋の前に立っている。








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作者名:oniononion | 作成日時:2017年6月16日 22時

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