【SERVAMP】鬼の白絹【憂鬱】 (ページ9)

今日:17 hit、昨日:7 hit、合計:43,408 hit

09.タイムトラベラー？ページ9

『おはようございます』

翌朝。控えめに開かれた扉からひょこりと顔を覗かせたAは、既にいたシャムロックと桜哉へそう挨拶しながら部屋へ入ってきた。

「おはようA嬢、よく眠れたか？」

『ええ… しゃむさん、昨日は色々と教えてくれてありがとう』

昨晩、Aはシャムロックに部屋へ案内されたところで、そこにある調度品や設備について一通りの説明を求めた。

照明の灯し方から水周りの用途と使用法、寝具や鏡――全てが初見のAには、何が何やらさっぱりだったから。

『椿は？』

少し探すように周囲へ視線を走らせてAが訊ねれば、まだ寝ているとのことだった。

「あの人は基本、昼過ぎまで起きてこねーよ」

『そうなの？あぁ… だから昨日も夜なのにあんな元気だったのね』

なんて、そんなどこかズレた発言をされて、何とも言えない表情で口を噤む二人。

それをよそに、Aはふと桜哉が背中を凭れて陣取る窓辺に目を留めると、引き寄せられるようにそちらへ駆け寄った。

『昨日も思ったけど、本当に高いわねこの建物……あんなお箸みたいに細長くてどうして倒れないのかしら…？』

「……」

何だこれは。話しかけられているのか、単なる独り言か…？

何となく気まずくて視線を逸らそうとした時。

ちょうどこちらを振り向いたAとバッチリ目が合って、桜哉は蛇にでも睨まれたかのように体が固まった。

『ねぇ、訊いてもいい？』

「……何」

『下を走っている… あの乗り物はなぁに？どうやって動いているの？』

「……それ本気で言ってる？」

よくあるタイムトラベルもののファンタジーで使い古されたような台詞に、桜哉は眉根を寄せて露骨に訝しんだ視線をAに向けた。

すると一瞬きょとんとした顔になったAは、可笑しそうにくすくすと笑い出して。

『ふふ、おかしなこと訊いちゃった？』

「……」

『ここには、巫術よりも不思議なものが当たり前に溢れているのねぇ……』

(フジュツ…？)

何だそれ。

そうは思ったものの、訊いてしまえばまた何かとんでもない言葉が返ってきそうな気がして、桜哉はその疑問を声に出すのはやめた。

『あのね、もう一つ訊かせて？あなたの名前』

昨日一度の紹介では流石に覚えられなかったとAはどこか楽しげに苦笑する。

気付けば、いつの間にかシャムロックは忽然と姿を消していて。

完全に押し付けられたな、と桜哉は己の役回りに内心で深くため息をついた。