【SERVAMP】鬼の白絹【憂鬱】 (ページ48)

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48.Whose is it？ページ48

『椿、遅いわね……』

先日に引き続き、計画に関する用事で一人外出中の椿。

そう遅くならないはずが、外はすっかり暗くなって、みぞれまで降り出していた。

探しに行こうと席を立つAをシャムロックが引き止める。

「待てA嬢、こんな時間に一人での外出は危険だ。解っているだろう」

『あら、椿のところに行くんだもの、危ない事なんてないわ』

「入れ違いになったらどうする」

こういう時、彼はかなりめんどくさい。

それもこれも、すべては心配や過保護というより椿のためであることをAは知っている。

「A嬢が絶滅すれば、若が悲しまれる」

『ぜつめつ…？』

くすくすと笑うAに、シャムロックは大真面目に続けた。

「自分が誰のものなのか、よく覚えておくことだ」

『私は…』

「A嬢は若のものだ」

当然のように言い切ったシャムロックだったが、それに対するAの様子は少し妙で。

『……』

「A嬢…？」

『それじゃあ、行ってくるわ』

にこりと微笑んでAがそう断言すれば、シャムロックは渋々ながら出掛ける用意を始めた。

またあれこれとしつこく言い含められた後、ようやく一人エレベーターに乗り込んだAはぽつりと零す。

『……本当にそうなら良かったのに……』

＊＊＊

日が落ちても星や月明かりを必要としない現代の街。

白い喪服に赤い番傘を差したAが、下駄を鳴らしながら人波に紛れて夜道を歩く。

すれ違う人々が自分をただ素通りしていくことに、Aはなんだか可笑しくなった。

ここでは髪が白いとか黄色いとか、目が赤いだとか青いだとかは何の意味も持たない。

時と場所が変われば――たったそれだけの事で。

ヒトは闇を照らし不気味を明かし、病を克服し死を遠ざけた。

痛みも、苦しみも、哀しみも、恐怖も。

こんな世では、妖怪変化も廃れようというものだ。

『だって、私達には何もない……忘れられてしまえば、望まれなくなったら、消えるだけ……』

いつかと同じ言葉を、同じ安らかな声で呟いて、Aはぴたりと足を止める。

大通りを少し外れた、小さな公園。

誰もいないその場所で、ベンチに座る黒い影を見つけた。

しんしんとみぞれの降り続ける中、声を上げて慟哭するでもなく、ただ俯いて静かに涙を流すそのひとを。

こんな風にかなしみに暮れて泣くひとを、Aは他に知らない。

『椿』

血のように透き通った紅が、Aの声に反応してこちらを見た。