【SERVAMP】鬼の白絹【憂鬱】 (ページ45)

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45.鬼の白絹ページ45

『ふふふっ、くすぐったいわオトギリ』

今やすっかりAの病室兼用となった椿の自室にて。

確かめるように何度も肩口をなぞるオトギリの手に、Aはくすくすと笑って身を竦める。

「本当にもう何ともないの？」

『ええ、見ての通りよ』

祭りの夜から数日、１週間と経たないうちにAの傷は跡形もなく治癒した。

吸血鬼には劣るものの、人間を遥かに凌ぐ回復力――妖怪… とは、皆一様にこういうものなのだろうか。

『これで心置きなく、オトギリと約束してたスイーツバイキングに行けるわね』

本人は相変わらずの能天気ぶりだし……

「困ります……」

言いながらも、結局二人はそのあと快気祝いがてらスイーツバイキングへ行き、再び置いてけぼりをくらった椿がヘコんでいたとかいなかったとか。

＊＊＊

――しゃらん…

いつも通りAと日課の散歩に出ていた椿の隣で、シャラシャラと赤い鬼灯が澄んだ音を奏でる。

夏が過ぎ、涼しさが少し肌寒くなってきた頃。

吹き抜けた風に促されるように、Aは肩に羽織ったショールを手繰り寄せた。

飾り気の無い真っ黒なそれは「これから寒くなるから」と椿が出掛けに贈ってくれたもので。

なんとなく、そういえばべルキア達もこういった黒い布を身に付けていることがあったのを思い出す。

椿に何か用事を頼まれて、彼のために動く時に――そこにどんな意味合いが含まれているのか、Aは知らない。

知らなくても、特に気にならないし、構わないと思っていた。

これまでは、

『ねぇ、椿』

「？」

不意に歩みを止めたAの声に、椿が振り返る。

『椿の望みは、なぁに？それって、面白いこと？』

唐突にこれまで一切触れてくることのなかった疑問を投げかけられ、意表を突かれて押し黙る椿に『あのね、』とAは続ける。

『私にできることがあったら、教えてね』

『私に、椿を助けさせてね』

いつも通りの底抜けに穏やかな笑みを浮かべて言うAに、やがて椿もゆっくりと口元を緩めた。

「……ありがとう」

だけど――

「ねえA、何もしなくていいから、ここにいてくれる？」

繋いでいた手に柔く力を込めてそう言えば、Aは少しきょとんとした後『もちろん』とまた笑顔で握り返した。

『私は椿と一緒にいたいわ』

この鬼の白絹が、汚れることのないように――

「君は僕が守るよ」

Aの雪のように白い髪を手に掬い、口付けを落として椿はそう誓った。