【SERVAMP】鬼の白絹【憂鬱】 (ページ42)

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42.沁みる赤ページ42

そこに椿が駆けつけた時、事態は既に収束を迎えていた。

血だまりの中に座り込んだAと、その周囲に倒れ伏すＣ３の人間たち。

一見して状況を把握しかねる光景に、椿は茫然とその場に立ち尽くした。

すると不意に聞こえてきたのは、深い深いため息。

酷く、憂鬱そうな。

『かあいそうね……』

暗がりの中、朱色の瞳がユラユラと、燃える焔のように妖しく光を灯す。

噎せ返りそうなほどの血の香りが、酔ったみたいに思考を鈍らせるような気がした。

『もう帰りなさい……花のように散らされたくはないでしょう？』

目に見えて疲弊しながらも撤退を躊躇している様子のＣ３に、Aが告げる。

『足が動くうちに逃げた方がいいと思うけれど……』

次は手折(たお)るわよ。

ひたすらに無感動なその響きに、男達が思わず固唾を呑んだのが分かる。

そして彼らはすぐさま、音もなくAの前から姿を消した。

「A…！」

『……つばき』

駆け寄る椿をどこかぼんやりと焦点の定まらない目で捉えたAは、危惧した通りその細い肩に傷を負っていて。

流れ出た血が、彼女の白い喪服を真っ赤に染め上げて、地面に血だまりを作っていた。

「っ、ごめん… 僕のせいだ……僕がちゃんと君の傍に付いていれば……」

本人よりも余程辛そうに顔を歪める椿に、Aは困ったように眉尻を下げる。

『……ごめんね、椿』

Aの白くて華奢な手が、椿の頬をそっと包んで、親指が目元を撫でた。

『泣かないで』

「っ……泣いてないよ」

やめてほしい。

君にそうされると、本当に涙が溢れそうになるから。

怪我した肩を庇いもしないで椿に腕を伸ばすAは、心配そうにこちらを見上げるばかりで。

自分の傷や痛みを、まるで気にかけていない様子の彼女に、椿はますます胸が痛んだ。

「……どうして」

君は泣かないの。

ちゃんと危険を怖がってよ。

傷や痛みを恐れてよ。

君を大事にしたいのに、君のことがわからない－－

スルリ… と、頬に触れていた手が滑り落ちるのに、椿はハッとした。

「A…っ？」

『さすがに……すこし、疲れちゃ…』

腕の中に倒れ込んできたAが、か細い声で言いかけて瞼を閉じるのに、椿はキツく唇を噛み締める。

拠点へ戻るにあたって抱き上げた彼女の体は、出血のせいもあってかいやに軽くて。

今にも消えていなくなってしまうんじゃないかと言い知れない不安に苛まれながら、椿は夜闇の中を駆けた。