【SERVAMP】鬼の白絹【憂鬱】 (ページ41)

今日:22 hit、昨日:7 hit、合計:43,413 hit

41.鬼哭ページ41

『話に聞いて、魔術師ってどんなものか、気になってはいたのよね……』

あなた達がそう？

街灯もまばらに人通りのない夜道で、底抜けに穏やかな声が疑問を紡いだ。

暗闇に浮かぶ、４つの白い影。

うち３つは中立機関Ｃ３の制服を身に纏った戦闘員達であり、揃って苦い表情を浮かべている。

元凶は言わずもがな、そこに対峙している４つ目の影、この任務の捕縛対象にあった。

俗に〝鬼〟と呼ばれ、日本において古くから伝承に残る、その異形。

現在をもって憂鬱の真祖の庇護下にあるらしいそれを、拉致誘拐するとなれば容易なことではなかったが、思いのほか好機はあっさりと巡ってきた。

地域規模で催された、小さな夏祭り――そこに連れ立って現れた８番目とビャクカガチは、露店に花火にと心ゆくまで祭りを満喫した後、二手に別れた。

〝椿〟の傍を離れて一人、何の警戒心もない足取りで夜道を歩く彼女に、Ｃ３が背後から襲い掛かる。

無防備に晒された、白くて細い首に手刀を叩き込み。

対吸血鬼用の道具で、足元から棒状の拘束を出現させ。

即効性の麻酔弾を数発、華奢な身体に狙い撃つ。

－－そしてその全てを躱された。

『……ひとつ、あなた達に教えてあげる』

もともと回避能力が高いことは事前の情報で聞き及んでいたが、これは少々予想を上回る。

しかし、やはり一切攻撃には転じてこない以上、その立ち回りの上手さもさして脅威ではない。

こんなこともあろうかと、わざわざ戦闘班が出向いたのだから。

『鬼に逝き逢ってしまったら、即刻逃げるのが正しい選択よ？』

二撃目へと繰り出す彼らにそう言って、白い鬼はその場を飛び出す。

そしてさも迎撃するかのように、彼女は戦闘員の一人に肉迫した。

咄嗟に距離を取ろうと牽制のため翻された刃。

それは、今さっき不意の追撃を軽々と躱してみせた彼女なら、十分に避けられる攻撃、のはずだ。

にも関わらず、

――ザシュ…！

「「「!?」」」

辺りに鮮血が飛び散った――

＊＊＊

『――そらはあひ』

唄が、聞こえる。

『ちはくにそまれど
　しかたなし
　かのしをおもひて
　はなをさかさふ』

ひどく穏やかに、静かに紡がれるその唄は、焦燥に駆られながら夜道を走る椿の耳にも届いていて。

『あなわびしきこと
　あだがゑし
　まどへやまどへと
　おにがなく』

しゅらららら… と、どこかで蛇が嗤う声がした。