【SERVAMP】鬼の白絹【憂鬱】 (ページ40)

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40.夏祭りページ40

『つばきつばき、あれはなぁに？次はあれにしましょうっ』

建ち並ぶ屋台と赤提灯の明かりが煌々と輝く夜の夏祭り。

興味津々ではしゃいだ様子のAに繋いだ手を引かれながら、椿は賑やかな雑踏の中を進む。

「あ、みてみてA、これ良くない？」

通りがかりにふと目に留まったそれは、ガラス細工のような紅い鬼灯の飾りが付いた簪。

『わあ、本当……すごく綺麗』

「買ってあげる。今日の記念に」

気に入った様子だったのでそう言ってやれば、Aは嬉しそうにお礼を言って笑った。

『ふふふ、椿とおんなじ』

簪の先で揺れる鬼灯の色は、椿の瞳によく似て血のように透き通った紅。

うっとりと蕩けるような視線で眺めるAに、心臓を鷲掴まれる心地がした。

だってそれではまるで、彼女が簪を気に入ったのは〝椿とおんなじ〟だからと言われたみたいで。

『大事にするわ』

「うん……似合うよA」

手早く髪を纏めると早速その簪を挿してみせたAに、ひどく胸が熱くなる。

歩くのに合わせてシャラシャラと音を奏でるその紅が、彼女の雪のような白い髪にとてもよく映えていた。

＊＊＊

輪投げに射的に金魚掬い、かき氷と綿菓子とりんご飴。

打ち上げ花火を眺めていれば、祭りはあっという間に終わってしまった。

帰る前にお手洗いへと別れたAを待つ椿が、ベンチでのんびりたこ焼きを食べていた時。

「……？」

不意に鼻を掠めた匂いに、椿は辺りを見回す。

露店から漂う美味しそうな食べ物の匂いとはまた別の、椿がよく知っている、それ。

この香りは――

…………Aの？

Aはいつもいい匂いがする。

甘くて、涼やかで、優しい、いい匂い。

けれどそれは、こんな風に離れていてもわかるほど、強いものではなかったはず。

「っ……」

嫌な予感がして、椿は弾かれたように立ち上がると匂いの方向へ人混みの中を駆け出した。

未だ後片付けで賑わう通りを避けるため、すぐに露店の裏に出る。

暗い夜道を行けば行くほど、ますます匂いは濃くなっていった。

吸血鬼の嗅覚が嫌でも拾ってしまう、血の匂い。

数百年前、あの日の痛ましい記憶が、頭の中で鮮明に蘇って。

あの黒い獅子の咆哮が、今にも聞こえてくるようだった。

あの時と同じだと感じながら、椿は何度もそれを否定する。

Aは先生じゃない。

違う。

あんな思いは二度と御免だ。

それなのに、

――どうして繰り返してしまうんだろう。