【SERVAMP】鬼の白絹【憂鬱】 (ページ38)

今日:12 hit、昨日:7 hit、合計:43,403 hit

38.ナくナくページ38

「なんでこんな所で寝ちゃってるの…？」

端末の位置情報を頼りに辿り着いたとある公園、その雑木林にて。

椿はようやく見つけた探し人の不可解な現状に、困惑のまま呟きを零した。

芝生の地面に寝転んで、すやすやと心地良さそうに眠っていたAを起こせば、朱色の瞳がぼんやりと椿を見上げる。

『つばき…？ ……どうしたの？』

「どうしたのじゃないでしょ。いつもより帰りが遅いから探しに来たんだよ」

『え…？やだ、もうそんなに経ってたの？』

横たえていた体を起こして微睡みから覚醒したらしいAは、それから少し思案する素振りを見せた後、椿に言った。

『……ねぇ椿、地下の怪物って知ってる？』

「？なにそれ…？」

『さっきみくにくんが言っていたの。シースリーのお使いで来たようなのだけど……』

「みくにくんって… まさか有栖院御国に会ったの!? 何かされなかったっ？」

『ふふ、平気よ。ちょっと伝言をもらっただけだから』

Aはそう言うけれど、あの組織が人外に対して如何に傍若無人であるか、それを知る椿としては、にわかに信じ難い話だ。

「伝言って…？」

『それによるとね、どうも私の一族は、私を除いて一人残らず、既に死んでいるみたい』

あまりにも自然な口振りに、椿は一瞬言葉の意味が飲み込めなかった。

『わかっていたことだわ……私自身、この辺りを歩いていて何も感じない……』

『ここには照らせぬ闇も、明かせぬ不気味もないから……』

『――て私達…――……望…――ら、――だけ……』

混乱しているのか、独り言のように吐露される言葉は椿に理解できるものではなく。

ただ解るのは、Aが大事な家族を失って、傷付いているということ。

『一族の生き残りも、とうとう私ひとりだけになっちゃったのね……』

いつか思った通り、やはり困ったような淡い笑みでAが言う。

そんな彼女を黙って見ていられなくて、椿は胸を貸すようにAを腕の中へ引き寄せた。

「A……泣いてもいいんだよ」

泣いたらいい。

自分はいくらでもそれに付き合うし、誰にも咎めさせたりしないから。

けれど――

『……泣かないわ』

椿の背中に手を回して、寄り添うように身を預けたAは言う。

『私には、必要ないことだもの……』

いつも通りの、酷く穏やかな声。

それがあんまり安らかで、椿はAが『そろそろ行きましょうか』と言って離れるまで、暫く無言のまま二人でそうしていた。