【SERVAMP】鬼の白絹【憂鬱】 (ページ34)

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34.バニラと抹茶ページ34

『ふふふ、冷たくて甘ぁい』

公園のベンチに腰掛けコンビニのダッツに口元を綻ばせるAに、同じく隣で抹茶味を食べていた椿が笑い声を漏らした。

「あはっ、Aは何でも美味しそうに食べるよね。バニラ味おいしい？」

何気なくそう問えば、Aは『椿も食べる？』なんて自分のスプーンで掬ったダッツを一口差し出してきた。

途端ピタリと硬直する椿だが、不思議そうに首を傾げるAはその行為に少しも抵抗を感じていないようで。

諦めてそのまま彼女からバニラ味を貰うと、椿も自分の抹茶味をAに差し出した。

『ふふ、抹茶の味がする』

やはり何の気後れなく椿のスプーンからダッツを貰ったAは、そりゃそうだろうというような感想を零す。

楽しげに笑うAの頬へ椿の手が伸びたのは、完全に無意識でのことだった。

『……つばき？』

「ん？」

『えっと、その……私の顔に何かついてる…？』

「え…？ …――っ」

珍しく戸惑った風に目を泳がせるAに言われて、椿はようやく彼女の頬に触れる自分の手に気付き慌てて引っ込めた。

『……？』

気掛かりそうに椿へ視線を送るAだが、口元を覆ってそっぽを向いた彼は黙ったまま動かない。

適当な言い訳で誤魔化す余裕もないくらい、椿は動揺していた。

(な… なんでいまAに触ったの僕……)

バクバクと不自然に暴れ出した心臓が煩い。

ここ最近、Aと一緒にいると椿はどこかおかしくなる。

そろりと視線を戻せば、Aはちょうど手にしたダッツが空になるところで。

「……そろそろ行こうかA」

ベンチから立ち上がって手を伸べれば当たり前に重ねられるAの手に、そういえばこれもかと椿の中で疑問が募る。

今ではだいぶ現代に慣れてきたAは、もう最初の頃のように何かに目を惹かれるままフラフラすることはなくなった。

手を繋いで捕まえておかなくても大丈夫なはずなのに、どうしてだろう。

考えてみたものの、やはり答えは分からない。

けれど――

『もうすぐ日も暮れそうだけど、どうする椿？
早めに帰った方がいいかしら…？』

「そうだねえ……もう少し歩こうよ、ちょっと回り道してさ」

『ふふ… そうね、そうしましょう』

もう少し、もう暫くは、このままで。
理由が分からなくてもいいような気がした。

ただ今は、繋いだ手から伝わるAの体温も、彼女と並んで歩く散歩道も、どこか心地よくて温かいと思うから。