【SERVAMP】鬼の白絹【憂鬱】 (ページ31)

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31.ひとりごとページ31

『そういえば、こっち来てからひとりで歩くのって初めてね』

閑散とした街路を気の向くまま歩いていたAが、ふと立ち止まって呟く。

通り抜けた風が運び込むこの時代特有の匂いに、改めて自分が以前とは遠く掛け離れた場所にいることを実感させられた。
薄暗く空気の停滞した廃神社とは違って、明るく拓けた青空の下。

けれど考えるのは、あの頃と同じこと――

『みつき… あの子いま、どうしてるのかしら……』

1000年前に生き別れてからずっと会えていない、Aの弟。

Aはみつきに会いたかった。

たとえ彼が、自分を1000年以上もの幽閉に至らしめた張本人でも。
だからこそ会って、理由を訊きたかった。

みつきはどうして突然、Aを封印したのか。

一族が解体の憂き目に遭った当初、まだ幼かったみつきを親に代わって育てたのはAで、自惚れでなく彼には慕われていたと断言できる。
笛に閉じ込めて絶縁されるほどの恨みや怒りを買うような理由に、まったく心当たりがないのだ。

せめて理由くらい教えてくれれば。
謝るよりはそれを、言い訳を、してほしかった。

みつきはAの、大事な家族なのに。

『さみしい……』

ひとりぼっちだ。

――「ねえ、A」

――「行く宛がないなら、僕の所においでよ」

『……』

不意に過ぎったのは、血のように紅く透き通った綺麗な赤目。

あの日こちらへ差し伸べられた、温かい手を思い出した。

『……椿、今日もまだ寝てるのかしら』

あの眠たがりな黒狐の彼は、いつも昼過ぎにならないと起きてこない。

1000年前の習慣から朝は自然と目が覚めてしまうAは、起きたらまず自室を出る。
部屋に行けば誰かしら話し相手がいるし、退屈はしなかった。

そうして彼らと談笑を楽しみながら、Aはいつも椿が起きてくるのを待っている。

椿の傍にいると安心するから。
嬉しくて幸せな心地になれるから。

だから、Aはみつきとの再会を後回しにしていた。
みつきと会えば、もう椿達と一緒にいられないような気がしたから。
それは考えただけで、とても寂しいことのような気がしたから。

『……帰ろうかなぁ』

なんだか今は、無性に椿の顔が見たい。
椿に会いたいと思った。

いま帰っても、彼はまだ夢の中だろうけれど。

『部屋に入って起こしたりしたら、さすがに嫌がられるかしら…？』

半分くらい本気でそんな冗談を考えながら、Aは自然と足取りも早くホテルへの帰路についた。