【SERVAMP】鬼の白絹【憂鬱】 (ページ30)

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30.寝覚めページ30

「若ァアア！」

「!?」

スパァン！と自室である和室の襖を勢いよく開け放って乗り込んできたシャムロックに、未だ布団の中にいた椿は驚きに見舞われて起床を迎える羽目になった。

「ちょ、っと……何なのシャム、煩いんだけど」

「申し訳ございません若！しかしこの事態、是非とも若のお耳に入れておきたく…！」

「？」

相変わらず直らない若呼びだとか、土足で畳に上がり込まれていることだとか、色々と言いたいことはあったものの、シャムロックの慌てように椿は先に話を聞くことにした。

「A嬢が…！ひとりで散歩に出てしまったのです！」

「……はぁ？」

さっぱり話が見えてこない。

どうしてAが散歩に出たからと言って、シャムロックが自室に飛び込んでくるのか。

未だに眠気の残る頭で鈍く思考を巡らせながら、椿はその疑問に首を傾げた。

「危ないからと引き止めたのですが、まだ日も高いから大丈夫だと…！Ｃ３の画策であった場合も危惧するべきとは承知の上でしたが、昨日の弟君の件もあり無下にもできず…！」

「……ああ」

弟君の件、という言葉で椿の脳は一気に覚醒した。

思い出した――昨日、A達がよそのサブクラスに襲撃を受けたことを。

いま吸血鬼の間に出回っている、不穏な噂のことを。
それに関与しているかもしれない、Aの弟のことを。

「如何致しましょう!? 今からでも追って護衛を…」

「落ち着きなよシャム。Aも子供じゃないんだから大丈夫でしょ」

Aはきっと弟を捜しに行ってしまった。

当然、本当に見つけられるつもりで出たわけではないだろうけれど、昨日のことがあって捜しに行きたくなったのだろう。

一族解体後、二人きりで暮らしていたという大事な家族――会いたくないはずがない。

「こっち来てからずっと誰かしらと一緒だったんだし、たまにはひとりで散歩ぐらいさせてあげなよ」

「……若がそう仰るのであれば、これ以上は言いません、が……」

「過保護もほどほどにしないと嫌われるよ？」

なおもソワソワと落ち着かない様子のシャムロックにそう言って、もう一度寝る気にはならなかった椿は布団から起きて自室を出た。

なんだかモヤモヤしているのをスッキリさせたいと思って口にしたアイスは、お気に入りの抹茶味なのにいつもほど美味しく感じない。

「あぁ面白くない……」

窓の外に広がる雲一つない快晴の空を眺めながら、椿は憂鬱なため息を零した。