【SERVAMP】鬼の白絹【憂鬱】 (ページ29)

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29.遠ざかるページ29

『噂では男とも女とも言われていないようだったから……もしかしたら』

それは、確かにないとは言い切れない可能性の話だった。

Aの弟――みつきは1000年前に行方を眩ませて以来、消息不明であり現在どうなっているのか判明していない。

けれど、それが事ここに至って噂の張本人として現れるというのも、やや希望的観測が含まれていると言えた。

「ン～？たとえそうだったとしてェ、なんでソイツが吸血鬼を襲うのさァ？」

『そうね……ものすごくお腹が空いていたとか？』

「どんっだけ大食いなんだよォ～ッ☆」

『育ち盛り？』

「イヤお前ら不老ジャン……」

『ふふふ…』

A自身もあくまで一つの可能性として挙げてみただけのつもりなのか、直後にはべルキアと歓談を楽しんでいるが……

「捜してみる？」

『え？』

「Aの弟。この辺りにいるのかどうか、調べてみようか」

言ってみてから、椿は少しだけ後悔した。

もしも彼女の言った通り、みつきがこの近辺にいてその所在が割れた場合――Aは椿達の元を去って、弟の所へ行ってしまうかもしれないから。

彼女は弟を恨んでいないようだし、みつきの方も何を思って姉を封印したのか、その心境は明かされていない。

Aなら、1000年以上の時を経た弟とのわだかまりも、案外あっさり解いてしまう気がした。

『いいの…？椿、やりたいことがあるんでしょう』

具体的な内容はともかく、椿が近い将来に何かしらの大きな計画を構えていることは聞き及んでいたAは、彼の提案を受けて心配そうに首を傾げる。

「大した手間じゃないよ、ねぇシャム」

「はっ、勿論です若！全ては若の望みのままに！」

「若はやめてったら」

『……じゃあ、お願いしてもいい？』

「任せろA嬢」

意気込んだ様子で快諾するシャムロックに礼を言って、Aは椿にも笑いかけた。

『ありがとう、椿』

向けられたそれは先程の激しい動悸を引き起こした微笑みと同じだったのに、今度はまったく心臓が跳ねたりしなかった。

Aが自分の傍からいなくなる。

それは考えただけで面白くなくて、つまらなくて。

彼女にとっては良い事だろうに、それを一緒に喜んでやれない自分が憂鬱で。

『私も少し自分で捜してみようかしら……』

そう独りごちるAが既に酷く遠くへ行ってしまったように感じて、椿はツキリと胸が痛んだ。