13.クシザシ公 ページ13
『べ、べる……べる、しや…?』
「違ァうべルキア! 昨日も教えただろォ!?」
出会い頭に名前を思い出せず間違えられたべルキアが、Aに抗議する。
『ごめんなさい、何だか覚えづらくて……』
「シャムは覚えてんのにィッ!?」
『しゃむさんはしゃむさんで覚えてしまったもの……』
困ったように苦笑するAは確かにそういった言語に疎いようで、シャムロックの呼び方もどこか拙い。
それならばと焦れたべルキアはどこからともなくマジックペンを取り出すと、言われるがまま差し出されたAの腕に豪快にペン先を走らせた。
「クシザシ公、べルキア様ッと! ほォらこれで間違えなァい☆」
『わあ本当、……これなら覚えなくても、見ればわかるわね?』
「覚えるんだよ消える前にィ!」
『ふふふっ、ええ… そうするわ』
べルキアの反応の良さが面白いようでくすくすとAが笑う。
そこにシャムロックが「今日も朝食はいらないのか?」と声をかけた。
『ん、そうね……オトギリとおそばも食べたし……』
「それは昨日の話では…?」
またどこかズレたことを言うAに、シャムロックは疑問符を浮かべた。
「そういやつばきゅんが言ってたけどォ、Aは精気ってヤツを食べるんでしょォ? ここ来てから食ってんの見たことないぞォ?」
『ええまあ… 私は元からあまり食べる方じゃないから……』
「お腹空いてないのォ?」
「少なくとも優に8時間以上は絶食しているはずだが……」
『? 吸血鬼はそんなにたくさん食事をするものなの…?』
「「「……」」」
さすがにズレているどころで済まないような発言に、話を聞いていた桜哉とオトギリも何とも言えない表情になる。
「ていうかそもそも精気って何なのォ? 美味い?」
『何って……うーん、生命力… 活力? 体力、というか……味、は特に……』
ハッキリと明確な説明はできないようで、Aは困ったように言葉を濁す。
「じゃあさァ、試しにやって見せてよォ☆」
『え?』
「体力ってんなら吸血鬼でも食えるんでしょォ? ボクのあげるから見せてみろよォ★」
好奇心からか随分と気前の良い提案をするべルキアに、Aは躊躇いがちに確認した。
『え、と……本当にいいの? 何ていうか、疲れるわよ…?』
「吸血鬼だもんすぐ回復するしィ〜☆」
『……じゃあ、ちょっとだけ』
いただきます。
控えめにそう言って身を乗り出したAの唇が、べルキアのそれと静かに重なった。
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作者名:きー | 作成日時:2017年5月8日 3時