最後の時 (ページ35)

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彼は言葉を選びながら口から絞り出しているようだった。

「お前と一緒でなければ、なんの意味も無い」

相変わらず視線は絡まない。

いじけている風にも見える。

不貞腐れた綺麗な鬼は、私の心をぐわんぐわん揺らしてくる。堪らない。

「じゃあ、黙って此処に居てね」

ジェボムが顔をこちらに向けた気配があった。

私は咄嗟に視線を逸らし、教科書を読んでいるふりをした。

視線は絡まない。

絡んでしまうと、ジェボムへの愛おしさに歯止めが効かないと思った。

胸の辺りが鈍く痛む。

でも何故か口元が笑ってしまう。

ふっ、と笑い声が聞こえた。

きゅうっと身体の芯が締め付けられた。

その感情を隠すように、余る程有るみかんに手を伸ばし皮を剥く。

しかし相変わらず上手く剥けない。

「貸せ」

中途半端に剥けた汚いみかんはジェボムの手に渡り、つるんと見事に身だけに剥かれた。

うぐぐと悔しく喉を鳴らせば、「お前はどうしてみかんを剥くのが下手なんだろうな」と笑われる。

楽しげな男の笑顔に少し見とれた。

しかし次の瞬間にはハッとして、バカにされたことへのムカつきに眉を寄せる。

「し、知らない」

お礼なんて言わない。絶対に。

「ほら」

「ん？」

ほら、と口元に差し出されるみかんの粒。

もしかしなくても食えという流れだろうか。

いや、でもこれは……。

「A」

「うっ……」

ちょんちょんと下唇に触れる冷たいみかんの感触。