最後の時 (ページ27)

今日:10 hit、昨日:0 hit、合計:54,910 hit

・・ページ27

その夜の事である。

布団の中にまたもや侵入しているジェボムにため息をひとつして、一回り小さい彼の手を自ら握った。

ジェボムはそれに関して何も言わずただ身体を擦り寄せる。

甘んじる私。

暗闇で光る少年の瞳がじいっと私を射貫く。

手は握っている感覚はあるが、力を吸収されている気配はない。

「食べないの？」

「考えている」

「何を」

ぎゅっぎゅっと断続的に握られる手。

首元にすり寄る肌触りの良い髪。

私は、可笑しな感情が芽生えているのを自覚していた。

抱きしめたい。

この少年が堪らなく愛おしい。

会って間もない、しかも鬼の少年だ。

しかしこの焦がれるように苦しい心はなんだろう。

「俺とお前は使役する者とされる者だ」

「……なんの事」

「言っただろう、俺はAの式神だと」

ジェボムは静かに教える。

何も知らない私に、一から教え込もうとしている。

「私には妖怪と使役の契約をした記憶はない」

「お前の血と魂は俺の存在の根源にあるのは事実だ」

「前世、ってこと？」

首元で頷く気配があった。

「俺はお前の力、つまり魂を喰っている」

「……それは、つまりどういう」

「契約を破棄しろ」

「は」

少年は淡々と、なんでもない事のように。

握られた手の感覚がない。

頭が混乱している。

「ちょっ、と待って。どうしてそういう事になったの。そもそも契約を、」

「破棄すれば、これ以上お前の魂は削られない」

今起こっている事象の本質が見えない。

何故いきなりそんな事を言い出すのか。

もう少し考える余地だとか、判断を下せるくらいの資料提供はないのか。

「破棄したとして、ジェボムはどうなるの」

「どうともならないさ。A以外の奴から魂を喰うか、それが許されないなら消滅するだけだ」

「意味が、理解できない」

「兎に角、明日にでも契約を破棄しろ」

今は眠れと少年はそれきり喋らなくなった。

私は暫く悶々とし寝つけなかったが、いつの間にか夢を見ていた。

それは見知らぬ男との夢。

ああ、私はこの男を以前も夢に見た。

そういう自覚があった。