最後の時 (ページ14)

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「魚はなぁ、大きいのも小さいのもいるがー？」

「うん、いるね」

突然どうしたのかと、いきなり始まった魚の話に付き合う。

お婆ちゃんは突拍子も無く私の知らない世界の事を教えてくれる。

それが全部合ってるとは思わない。

けれど彼女の話は毎回興味深く、そして理屈が合うのである。

たぶん、恐らくきっと。

「大きさでな、許容量が違うんよ」

「許容量？」

くつくつと鍋の蓋が踊る。

小気味いいトントンという包丁の音と、小さいお婆ちゃんの後ろ姿。

「子供も年寄りも同じ。体が小さくなると周りの変化に耐えられんようになるからね」

「う、うん？」

何が言いたいのか、その真意を汲み取りたい。

耳を傾け、趣のある背中を見つめた。

「人間はいつでも自分勝手だからねぇ、自分で汚しておいてまるで善人のように命を救おうとするんよ」

「……環境汚染とか？絶滅危惧種の話？」

お婆ちゃんの首がこっくり頷いた。

難解だ。

しかし言いたい事は分からなくはない。

「小さい者には優しぃく、しなければね」

お婆ちゃんは、そう言って魚を刻んでいく。

「生き物は進化するんだってよぉ、でもなぁ、進化せにゃならん環境を作ってるのは殆ど人間様よ」

小さい身体が震え、あっはっはっと笑った。

何に対して笑っているのだろうか。

楽しいのか、さげすんでいるのか。

はたまた嘲笑っているのか。

なんにしても、私はその助言を心に刻んだ。

そうしてきっと、私と言う人間を構成する因子となっていくのである。

今日はとても、清々しい朝だ。

「人間さまさまよぉ」

お婆ちゃんは今日も絶好調である。

自然と笑っている。

茶の間に行って炬燵に入り込んだ。

温かい。

お爺ちゃんは昨日とは打って変わり落ち着きを取り戻している。

「お爺ちゃん、本見つかった？」

「本？」

「……え、鬼の封印の」

私の言葉を全て聞く前に「ああ！」と声を上げたお爺ちゃん。

驚愕の表情に固まりながら口をあんぐり開けている。

少し滑稽に思えてしまった。

「忘れとった……」

「えー。あはは、お爺ちゃんらしいね」

おっちょこちょいなのか忘れっぽいのか、むしろ同時に併発しているようにも見えるが、そこがまた愛おしい存在で。

障子が開いていて、縁側から入る日光に目を細める。

今日学校から帰ってきたら探そう。

そう決意して三人揃って朝ごはんを食べた。