305号室のユンギくん。3

27 ページ27

.




［後悔、してねぇのか？］


なんで？
おじいさんはどこまで
わたしたちのことを知っているんだろう…


［なんで知ってんだって顔だな？］

「え…あの……」

［兄ちゃんが来たときに、…ちょっとな。］

「そう、ですか…」


ユンギくんは何を話したんだろう。
わたしのこと？
でも、もう関係のないこと。



［何があったのか知らないけどよ、
　後悔だけはすんなよ？
　失ってからじゃ遅いぞ？］

「失ってから……」

［ん、……って、大丈夫か？！］



無意識に、涙が出ていた。

失ってからじゃ遅い。
自分で選択したはずなのに、今もまだ後悔してる。
まだユンギくんを諦められていないわたしがいる。
そんな気持ちでジンくんと付き合ってるなんて、
本当、最低な人間だ。


おじいさんは、
［ちょっとゆっくりしてきな］
と、わたしを椅子に座らせ、お茶を出してくれた。
何を言うわけでもなく、
ただ、レジで新聞を読んでいる。
新聞をめくる音だけが、店内に響く。



「あの…」

［ん？落ち着いたか？］

「なんか、すいません…」

［いいよ、あ、もう一杯飲むか？］

「いえ……
　あの、ユンギくん、……」

［ん？］

「いえ、なんでもないです、すいません…」



ユンギくんがここに来た時
何か言っていたのか気になったけど、
それを今聞いたところでどうしようもなかった。



［…ったく、お前らは世話が焼けるなぁ！］



いつものように
ガハハ！と声を上げて笑うおじいさんは
次の瞬間、いつになく真面目な表情になった。



［……後悔してる
　このままでいいなんて思ってなかった
　こんなことならちゃんと好きって言えばよかった］

「え…？」

［あー、いまのは独り言だ！］



口止めされてたのになぁ！
俺もとうとうボケたか？
なんて言いながらまた大声で笑うおじいさん。

口止め…？
いま言ったことは…
ユンギくんが…？



［あ、姉ちゃん、時間大丈夫か？］

「あっ、もうこんな時間！
　すいません、ありがとうございました。
　お茶もごちそうさまでした。」

［ん、気をつけてな。次は、2人で来いよ？］

「え、あ……」

［大丈夫だ、］



わたしを見て大きく頷くおじいさんに
聞きたいことがいっぱいあったけど、
なんとなく聞いてはいけない気がして
そのまま店を後にした。




ユンギくんが言ったであろう
"後悔してる"

おじいさんがさっき言った
"大丈夫"


まだ、間に合うのかな。
自分の気持ちに素直になってみても
いいのかな。



.

28→←26

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す