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「ママねんねしてる」
「おう、そうか」
ミアはAに帰宅を知らせるためにリビングまで行くと、ペタペタと足音を立てて踵を返してきた。
小さい声で起こさないようにそう言ったミアに連れられリビングに行くと、机に伏せて肩を上下させて寝ている。
どれだけ寒くても部屋のなかではタンクトップ姿でいるAを注意する気はもうないが、風邪をひかれるのは面倒だから、という理由でブランケットをかけた。
「今日たのちかったね」
「そうだったな」
今日は後輩の墓参りに行った。
あの日教習艦隊に乗っていた数十人の海兵たち。
海賊に襲われて一斉に命を落とした。
俺が慕っていた教官の直属の部下たちだった。
「あのおじちゃんこわかった」
「怖い…か。まぁ、そうだな。」
「お顔が“ぐわぁ”って」
「顔が怖かったのか」
今日、墓標の前でかつての教官に出会った。
“なってない、やり直せ”とよく言われたのを昨日のことのように思い出す。
随分と老けた姿だったが、あんなところであんな話を聞くことになるとは思わなかった。
「…ごめん寝てた。お帰り。」
そう言ってブランケットをかぶりながら起き上がってきたA。
ミアは嬉しそうに駆け寄って抱き上げるようにせがむ。
Aは寝たりなさそうな表情で目をこすると、今日もあの老女が会いに来たことを知らせてくれた。
「なんか上の空、って感じだな、何かあったのか？」
「なにもないよ、ママ！」
Aの問いに間髪入れずに答えたのはミアで、俺がうまくごまかそうとした言葉をすべて吹き飛ばしてしまった。ミアは“ほんとに何もないんだよ、”と手をばたつかせて釈明しているが、俺がごまかしに成功したとしてもAにはお見通しだった。
「言え。」
「怖い怖い、顔怖いよ、」
Aは俺の襟首を持つと、まるで突き刺さるような視線で俺の目をにらみつけて隠している事を吐くようにと言ってきた。
俺はここ数日で起きたことが頭の中でぐるぐると回っているのを感じる。
「隠してることは言う。その代わりに約束してくれるか？」
「約束の成立は物事による。」
「じゃあ、一つだけ約束だ。“わがままを言うなよ”」
小指を立て、“ぜってぇ約束、”とつぶやくと、彼女は不服そうにその小指に自身の小指を絡めた。
案外そういうところが可愛かったりする。
「＿夜にはここを出る。」
「行先はどこだ」
「それは内緒よ」
「殺されたいか」
「ムリムリ」
続く
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作者名：長官 | 作成日時：2024年2月18日 6時
