シングルマザー、生きてます。 (ページ2)

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「私の娘は生きていたらあなたくらいの歳で、海軍だったのよ。
あの戦争で旦那と孫を置いて戦死したの。即死だったらしいわ。
…死に顔も見れなかった。葬儀も執り行うことができないほど忙しかったって。
私はあの子を海軍に行かせたことを後悔したわ。」

彼女はポケットから“正義”と書かれた海軍将校が纏うジャケットの布から作られたであろう風呂敷のような布を取り出した。

この話は今日で四度目だった。だけれど話すことで彼女の中で整理がつくのであれば私はいくらでも聞こうと思っている。私の母親が私が幼い時に自信が経験した幼い時の苦しみをぶちまけて清算していたのを思い出す。

「形見はこれだけ。私は体が老いてしまったから彼女のお墓にも会いに行けない。」

彼女は私が元海軍だということも、あの時私を担いで島医者に走っていたのがかの有名な元海軍大将の青雉だということにも気づいていない。
でもそれを言ってしまえば、彼女がクザンに対して負の感情を抱かないとも言い切れない。

「少し、考える時間があれば整理がつくと思ってたわ。
何度も後を追おうと考えて。」

少し涙をこぼす老女は上品に涙をぬぐい、私が淹れた紅茶の最後の一口を飲む。
ソーサーにカップが置かれると、彼女は“長居しちゃったわね”と言ってカップを持ったまま立ち上がった。

「あぁ、いいよ。そのままで。」
「じゃあお言葉に甘えるわ。ありがとう。御馳走様。」
「こちらこそ」

そう言って手を振って出ていく彼女に手を振り返して、静かになった部屋でそっと時計を見た。彼女は私の顔を見に来るだけでなく、このように心に残ったわだかまりを消化しようと私にいろいろ話してくれる。

「…」

カップをキッチンに置き、さっきまで彼女が据わっていたダイニングチェアに腰かけ、テーブルに肘をついて頭の中にぐるぐると回る感情を整理するべく目を閉じた。

私は海軍に行って後悔はない。むしろ根性のない私を叩きなおしてくれた恩師には感謝しているし、何度も何度もあの頃に戻りたいと考えた。
苦しかった訓練も、苦しかった戦場も全部私のためになる場所だった。

特に才能があるわけでも、能力が高いわけでもない私を買ってくれて昇格もさせてもらった。
私にとっての一番の居場所は海軍だった。

けれどそれは家族がいないからで。

きっと大切な家族がいたら話は別だったのだろう。