シングルマザー、生きてます。 (ページ1)

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クザンはミアを連れて暫くの海上散歩に出かけた。
久方ぶりの一人の時間に少しばかりぼーっとできる。そんなささやかな喜びをかみしめながらぐーたらとした昼下がりを過ごす。

散歩に出かける前に“野暮用があるから少し変えるのに時間がかかるかもしれない”と言っていたし、ここ近海は海軍の統率下にある島が多いので墓参りでも行くのだろう。
別になんだっていいが、墓参りなんて母親の墓にたばこを供えに行った以来行っていないし、その前も戦死した後輩の墓参りなど顔を出せるものではないと感じてできたことがなかった。

…そういうところは律義だ。

「ごめんください、」

騒がしい普段とは違って珍しく静かな昼下がりにコンコン、と扉を叩く音と来客を知らせる声がする。せっかくぐーたら過ごしてやろうと思ったのに、と眠い目をこすってソファから起き上がると、扉を引いて開けた。

「お昼ごはん、まだだったでしょう？作りすぎたからぜひもらってくれる？」

そう言ってにこやかに明らかに一食分のメシではない量の料理が入った大きい鍋を抱えてにこりと微笑む老女は、仮住まいとしてここで居住を始めた私らに随分と干渉してくる隣の住人だった。

彼女は娘を亡くしているらしく、私を娘のようにかわいく思うと言った。
何が30代半ばの筋骨隆々の娘が可愛らしいだ、ふざけてるのか、と思う反面彼女の悲しみをさらに深いものにする発言などできなかった。

私自身も心のどこかに母親のぬくもりを探している自分がいる事には気づいていたので特に断ることもせず最近は厚意に甘えさせてもらうことが多い。

「あぁ、ありがとう。」

明らかに作りすぎた量ではないが、重い鍋を受け取ってキッチンに置くと、私は彼女を手招きして家に上げた。

「傷はどうなの？もうふさがってるの？」

前に滞在して居た島で負傷した私は、この島に移動してくる途中の夜中に傷口が開いた様で、大量出血を起こしてこの場所に担ぎこまれた。
初めて彼女に会った私ははらわたが飛び出そうなほど血を噴き出して大男に担がれて颯爽と島医者のもとに向かう様子で、ここまで交流を持つことになるとは思っていなかった。

「もうすっかり治った。心配ありがとう。」
「ならよかったわ。」

私は黙って椅子を引いて彼女に着席を促す。彼女は黙って私の引いた椅子に座ると、つつましく会釈をして、彼女の上品さを醸し出す。