【ONEPIECE】ストックホルム・シンドローム【トラファルガー・ロー】 (ページ16)

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#16 ページ16

「あれは＿＿A中将！？」
「行方不明だったはずじゃ……どうしてトラファルガーの船に……！？」

どよめく海兵らを横目に、クザンさんは少しだけ目を見開いた。

「あらら、誰かと思えば……何してんだそんなとこで」
「……お騒がせしてすみません」

いつも通り、気だるげな口調でそう言った彼の両手から冷気が漏れ出す。
今にも能力を発動しそうな勢いだ。

「あー、まあいいや。そこ危ねェから退いてなさいよ」

その言葉に冷や汗が伝う。
扉の隙間からローの鋭い視線が刺さる。

動かない私に、クザンさんは怪訝な顔を浮かべた。

「オイオイ何やってんだァ？早くしろ！」

……分かっている。
例え心臓がローの手にあろうと、私は海軍中将としての義務を果たさなければならない。

私がこの場から脱すれば、ローはすぐさま私の心臓を握り潰すだろう。
命が惜しいわけではない、けど。

「……わ、私に任せて貰えませんか！」

咄嗟に口をついて出た言葉。
めちゃくちゃなことを言っているのは分かっている。

だけど今、彼が攻撃すれば確実にこの船は沈むだろう。
それだけ……大将の強さは計り知れない。

「お前何言って、」
「青雉大将！！」

クザンさん＿＿彼は、昔からふらりと孤児院を訪れてはよく面倒を見てくれていた。
海軍の中では一番長い付き合いだ。

改めて海軍大将としての名を呼ぶ。
……こう呼ぶのは初めてかもしれない。

彼の手が停止する。
考えあぐねているのか、一瞬躊躇の色が滲む。

その時だった。

「＿＿＿甘いねェ」

彼の背後からひとつの影が飛び出す。

大将＿＿＿黄猿。

「“シャンブルズ”！」

高く地を蹴った黄猿大将を捉えた直後、突然視界が切り替わる。
一瞬の浮遊感の後、落下する身体をローの腕が抱き止めた。

「馬鹿、外に出るなと言っただろうが！」

そう目と鼻の距離でまくし立てるローに呆然とする。
ローは盛大に舌打ちをかますと、私を無造作に放り投げた。

「いだッ……雑！！」

文句を言う私を一瞥し、ローは慌ただしくオペ室へ駆けていく。

「まあいい。潜航準備の時間が稼げた。離脱するぞ、急げ！！」

彼の声で、船は潜水を開始する。

「“八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)”」

私が乗っていようとお構い無しに、黄猿大将の猛攻が船を襲う。

光が届かないくらい深く、深く。
彼らを乗せた船は、闇の中へと溶け込んでいった。