◆1611.いいお兄ちゃん ページ23
イヴ.
『ほら、目の焦点が合ってないよ』
焼いている時に黒目の部分の位置がズレたのだろう。たしかに狂ったような顔をしているが、薬やっていそうとか、例え方が独特過ぎる。
マレウス「焼きたてはうまいな。バイパー家にもベーカリーのようにパン焼き釜があったのか？」
ジャミル「俺の家にあるのは普通のオーブンです。釜を使いたいときには、カリムの家で借りていました。出来立ては格別のおいしさですし、大きさや形を自由に作れるのも、子どもの時は楽しみでした」
ナジュマ「そうそう。私、初めてパンを焼いた時、焦がしちゃったんだよね」
ジャミル「仕方ないさ。パン焼き釜で作るのは難しい」
焼きたてのパンを食べるために、窯を使おうとは考えたことはなかったなあ。
憧れはあるけど。
トレイ「俺も子どもの頃、オーブンでパイを焦がしたし、気持ちはわかるな。残念だったね、ナジュマちゃん」
ナジュマ「がっかりでしたよー。泣きそうでしたもん。でも、焦げたパンを使って、ジャミルがハンバーグを作ってくれたんだ」
グリム「ん？ 焦げたパンがハンバーグに？ どうやったんだ？」
ジャミル「焦げのひどい部分を削って、残りをつなぎのパン粉の代わりにしたんだよ」
ナジュマ「あれ、おいしかったなー」
ジャミル「あのまま捨てるのも勿体なかったからな。それにナジュマが失敗でめげたら、俺ばかりパンを焼き続けることになる」
ナジュマ「はいはい。
おかげで、今でもパンを焼くのは好きですよ」
微笑ましいなあ。
うちの学園ではなかなか見れない微笑ましさ。
ケイト「いいお兄ちゃんだね〜」
ジャミル「……そういうわけじゃありません」
否定するジャミル先輩だけど、本当にいいお兄さんだと思う。
『こう見てると、きょうだいってなんだかいいものに見えてくるよねー』
イヴ「！」
『きょうだいなんていいものじゃないってよく言う奴はいるけど、あーいうの見ると、ちょこっとだけいいな、って思えるよ』
イヴ「……そうだね」
『だとしたら僕、妹がいいなー！』
イヴ「私は、お姉ちゃんがいいな」
理想としては、面倒見が良くて、甘やかしてくれる優しいお姉さんがいい。
元の世界に戻ったら、もしかしたらいるのかもしれない。
私とAちゃんは、元の世界のことを憶えていない。 主に家族のことを。
イヴ「(なんで、思い出せないのかな……)」
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作者名：冬雪
| 作成日時：2021年9月7日 0時
