【刀剣乱舞】妖物語 (ページ28)

今日:2 hit、昨日:3 hit、合計:54,260 hit

119.叶わない存在ページ28

平野.

「嫉妬魔は退治できたかい？」

「……え？」

「嫉妬する前田……しっとまえだ……しっとま……嫉妬魔」

「そういうことだったんですか！？」

青江様が言ったことに素直に驚く。

どうやら＂嫉妬魔＂は前田だったらしく、青江様は前田の異変に気づいていたらしい。

なんでこうも兄弟のことに気づかない僕達より他人の方が察しが良いのだろう。悔しい限りだ。

自然とズボンを握り締める手に力が入る。

「悔しい、と思っているのかい？」

「……少し」

「別に君が気に病むことじゃないよ。誰だって大切だと思ったものには敏感に反応してしまうものさ。勿論、周りのことにだよ？」

「大切だと思ったもの……？」

「気付かない時だってある。でも一度大切だと思うものに対しての気持ちは変わらない。特にあの子はそういう子なんじゃないかな？」

「あの子……主君のことですか？」

「どうしようもなく優しい子だからね。だから兄弟よりも逸早く異変に気付いて、自分の身体がどうなろうとも人であろうと、元が刀であろうと助ける」

そう言って青江様はお茶を啜る。

しかし僕はそれは納得いかないものだった。結果的に僕らは主君に甘えていることになる。主従関係が成り立っていないことに僕は少し腑に落ちない。

……僕は、主君の助けになりたい

「僕は主君の助けになりたいです」

「それは無理なことだと思うよ」

「何故ですか？僕達刀剣男士は歴史を守る他に主君を守るために顕現されたようなものなのに」

「だって、僕らは彼女には敵わないから」

どうも現実味がある言葉だった。

「追い続けても追いつかないように、触れられるようで触れられないように、強くなっても敵わない。結局は僕らは人間じゃないから彼女次第では僕らは一瞬で鉄屑なんだよ」

「……っ」

あの方は女人で、僕達は男なのに。

それでも敵わないというのか。

「それでも役に立ちたいならまずは自分から動くことだね。彼女もそう言っているよ」

「主君がですか？」

「いや？彼女が」

「……え」

「ずっとここに居るよ。彼女もあの子のこと気に入ってるみたいだから心配はいらないね」

そう言って青江様は何もないところに指をさす。

微かな女人の笑い声が聞こえた。瞬時に背筋が凍った僕はすぐさまその場から退散することにした。

「おやおや、ただの幽霊を怖がっているんじゃまだまだあの子には敵わないようだね」

.