16.前田藤四郎「大人」 ページ17
前田.
「それじゃあ、少し待っててね」
前田「はい」
主君の誘われ万屋に来た僕ら。
主君は店の中へと入り、僕は店の前で待つ。これは護衛だ。店の外にいたとしてもちゃんと主君だけを見守る。
前田「(やっぱ見慣れないなぁ…)」
少しだけ店の中を覗き込んで、主君を見つける。
本丸の中では「学校の制服」という着物を着ている主君は本丸の外に出る時はいつも巫女服を着ているのだ。
前田「(いつもの着物姿も可愛いけど、巫女服姿も綺麗だなぁ)」
覚えたてのお金の使い方で悩む主君の顔は面白くて飽きない。
そして店番の方へと足を運ぶ主君。店番の男は主君に見惚れて、なんだか動きもぎこちない。
なんか親しげに話してる。主君が困ってる。主君が愛想笑いしているのがわからないのかあの男。
「お待たせ」
前田「主君、荷物持ちますよ」
「大丈夫だよ。軽いから」
店から出て来た主君は僕に微笑む。
主君は家族だと思ってる人しか微笑まない。ずっと見てるから、わかるんだ。
前田「主君、今日は何故頬紅や爪紅をついているのですか？」
「え？よくわかったね」
前田「当たり前です。僕は主君のことを見てます」
「…は、恥ずかしいこと言うね」
前田「そんなものをしていては不純な男共が主君に寄ってくるばかりですよ」
「そんなことないと思うけど…」
前田「前田は綺麗な主君をあまり見せたくありませんよ」
駄目だ。主君に我儘を言っては。
ほら、主君が吃驚して言葉も出さないでいる。恋仲でもなんでもないのに束縛するような言葉を並べては主君に引かれてしまう。
しかし、主君は微笑んで僕の頭を撫でた。
前田「主君？」
「頬紅と爪紅は清光くんがやってくれたの。だって前田くんの隣を歩くなら主君らしくしたいじゃん」
前田「僕の、隣？」
「大人びた前田くんの隣を私は堂々と歩きたいの。前田くんに呆れられたりされないように」
◇
◇
君のためを思って。
◇
前田「主君は主君です！呆れたりなんか絶対にしません！」
「…そっか。安心した」
前田「(…主君の方が絶対大人びてるし)」
.
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作者名：冬雪
| 作成日時：2018年7月28日 0時
