日暮れ ページ7
今日は朝から天気がおかしかった。
東を見上げれば晴れ間の覗いた空があり、西はと窺えばどんよりと灰の空がある。
その後にどしゃ降りの雨がやってきたかと思えば、とたんに雲の隙間をこじ開けるように太陽が差し込んできた。狐の嫁入りだった。
絵を描いていると、手が真っ黒になる。
特に利き手のちょうど紙に触れる部分(三島いわく、チョップする時相手に当たる部分)が汚れてしまう。
現在は夕刻。Aが30分くらい梅野を描いた後、二人は小休憩していた。
今日は、二人の他に部室に誰もいなかった。部室の鍵はAが閉めて出る事になっている。
二人だけの部室はとても静かだった。
ぼうっとしていると、廊下から、賑やかに走り去る女子の笑い声が聞こえた。
やがてAの意識は、廊下から部室内に向いた。さっきから視界の隅で、光が不安定に揺れていたからだ。
部室前方に、1つだけ壊れかかった蛍光灯があるのだった。チチチ、チカッ、チチ、と不規則に点滅しているそれが、普段なら目につかないのに、今日はなんだか不気味に感じられた。
二人きりだと思うと、Aはどことなく居心地が悪かった。いやに緊張していた。
そんな時、不意に梅野が立ち上がり、こちらに歩いてきた。
彼は、Aの右手をすいと掬い上げるように手に取った。
梅野の指はひやっとしていて、ずいぶんと華奢だった。Aは驚いて梅野を見上げた。
「何…」
彼と視線が交錯した瞬間、その握られた手から力を抜き取られたかのように目眩がした。
梅野は囁くように訊ねてきた。
「洗わないの?手」
「まだ、描くから」
Aの声が震えた。
「ふうん」
梅野はあっさり手を離した。彼は窓辺へ歩みより、外を眺め始めた。
(冷たい、あれでは氷だ)
梅野とは対照に、Aの手は炙られたように熱くなっていた。この熱が何なのかはわからなかった。
その正体を確かめようと、Aは立ち上がって梅野の横へ並んだ。
それだけで冷や汗が出そうな心地だった。
何故だろう。こんなにも美しい人間が横にいるから?いや、そうではない。少し違う。何かが違う。
梅野が窓の外を指差した。
「見て。また、日が差した」
「本当だ」
みるみる雲が晴れてゆく。広い水溜まりをつくったグラウンドが、太陽を反射してきらりと光った。きらりと光ったのと同時に、梅野が俺を振りかえった。
だからまるで、その輝いた目は夕陽が乗り移ったのではないかと錯覚させた。
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天泣tenkyu(プロフ) - 読みやすい わかりやすい 面白い 、の三拍子ですね!笑めちゃくちゃ読むの楽しくて一気に全部読んでしまいましたぁ…… (2018年10月11日 20時) (レス) id: daeb79a243 (このIDを非表示/違反報告)
ミオ(金欠)(プロフ) - 面白かったです。お疲れさまでした! (2018年2月26日 5時) (レス) id: f13eb61b67 (このIDを非表示/違反報告)
ゆき - 面白いのに、勿体無いと思います。 (2018年1月21日 11時) (レス) id: 581099bb6b (このIDを非表示/違反報告)
ゆき - 読みづらい。 (2018年1月21日 11時) (レス) id: 581099bb6b (このIDを非表示/違反報告)
小梅 - めっっっちゃおもろいです!!二人が再会できて良かったです!!更新頑張ってください!!q(^-^q) (2017年12月27日 17時) (携帯から) (レス) id: 76f089da6a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ぺぺこ | 作成日時:2017年10月30日 0時