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梅野は本当に、ほとんど動かなかった。時折そのまっすぐな髪の毛先を指で弄んではいたが。
｢梅野｣
Aは丸まってきた鉛筆をカッターで削りながら訊ねた。
｢どうして、モデルを引き受けてくれたんだ｣
梅野は「んー｣と伸びをしながらこたえた。
｢ひとの絵のモデルなんて、あんまりする機会ないでしょ｣
珍しかったから興味をもった、という意味だろうか。
｢そっか｣
｢逆に、なんでAは僕を描こうと思ったの｣
｢…｣
(あんまり、綺麗で)
｢一目見て、描きたいと思ったから｣
｢そっか｣
Aはかなり勇気を出して言ったのだが、梅野は無頓着そうだった。彼はAの鉛筆をしげしげと眺めている。
｢鉛筆って、6Bなんてのもあるんだ…このFって何だい｣
｢ファームって言ったかな。引き締まった、って意味の｣
｢へえ｣
梅野は興味深げに鉛筆の芯を見比べていた。
ふとAが腕時計に目をやると、描き始めてから二時間たっているのに気がついた。美術室にいた人間も、いつの間にか減っている。
Aが今日はそろそろ帰ろうか、と言おうとしたら、梅野に遮られた。
｢試しに書いていい？鉛筆｣
｢いいよ｣
Aは梅野をしげしげと眺めた。
(マイペースなやつだな)
絵のモデルをしていた時はぴんと背筋が伸びていたのに、今度は紙にかじりつくような猫背でなにやら書き始めた。
しかも梅野は足をぶらぶらさせながら、珍妙な鼻歌を歌っている。Aは笑いを堪えた。
｢すごいね6Bって、漆黒って感じ。ねえ、A｣
｢そうだな｣
(思ったより変なやつかもしれない)
Aと初対面に近いはずなのだが、梅野は遠慮なくよくしゃべる。
｢おーい、A｣
イーゼルを片していた三島が声をかけてきた。
｢ん？｣
｢悪いね、今日はもうそろそろ美術室を閉める時間だ｣
｢…だってさ、梅野｣
｢うん｣
三島はこちらに歩いてきて、ひょいっと梅野の絵を覗き込んだ。
｢んっ。これは｣
その絵は何かの動物のように見えた。
しかし、Aはそれが何なのかはさっぱり検討がつかなかった。三角形の頭から何やら触手のようなものが生えており、丸い何かを食べている…ように見える。
三島が首をかしげながら捻り出した。
｢ええと…犬？｣
梅野はううん、と首を振った。
｢キリン｣
俺も三島も固まった。
｢前衛的ね…｣
天は二物を与えない、というのは本当かもしれない。梅野はその持って生まれた美貌とひきかえに、画力を失ったに違いなかった。
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天泣tenkyu(プロフ) - 読みやすい わかりやすい 面白い 、の三拍子ですね！笑めちゃくちゃ読むの楽しくて一気に全部読んでしまいましたぁ…… (2018年10月11日 20時) (
レス) id: daeb79a243 (このIDを非表示/違反報告)
ミオ(金欠）(プロフ) - 面白かったです。お疲れさまでした！ (2018年2月26日 5時) (レス) id: f13eb61b67 (このIDを非表示/違反報告)
ゆき - 面白いのに、勿体無いと思います。 (2018年1月21日 11時) (レス) id: 581099bb6b (このIDを非表示/違反報告)
ゆき - 読みづらい。 (2018年1月21日 11時) (レス) id: 581099bb6b (このIDを非表示/違反報告)
小梅 - めっっっちゃおもろいです!!二人が再会できて良かったです!!更新頑張ってください!!q(^-^q) (2017年12月27日 17時) (携帯から) (レス) id: 76f089da6a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ぺぺこ | 作成日時：2017年10月30日 0時
