ページ34
自分の心臓の音が、いやに大きく聞こえる。自分の真下に寝転ぶ梅野の呼吸も聞こえる。Aはつぶやいた。
｢肌、綺麗なのにな。ここだけ…」
(もったいない)
｢僕、あんまり気にしてないけど」
｢そうか」
(でも、…)
なぜか、すごく艶かしい。
｢ねえ、A。ちょっと寒い」
｢あ、ごめん」
｢あと、恥ずかしい…」
ふいと梅野が顔を反らした。Aも急に自分のしたことが恥ずかしくなり、梅野から離れた。
｢ごめん。見たかったから…それ」
梅野は起き上がって服を直した。それから、Aの腕をぎゅうとつねった。
｢痛たた」
｢僕を笑い死にさせる気だったのかな。それに、傷なんて見てどうするの」
｢ごめん」
Aはまだ鼓動が速いままだった。指先とは違い、梅野の腹は温かかった。
傷を撫でたときの、何とも言えない高揚。たった一ヶ所だけピンク色に盛り上がった肉。あれがやたらとAの頭にこびりつき、理性を脅かすのだ。
梅野が俯いて言った。
｢…急に手、入れるから、びっくりした」
｢ご、ごめん。それは本当にごめん」
色々と不躾なことをしてしまったと、Aは反省した。
梅野が言った。
｢なんかお腹すいたな」
｢ああ、これ食べて」
梅野に大量のお菓子が入ったレジ袋を差し出したら、笑われた。
｢ふふっ、ありがと。ちょっと買いすぎじゃないかな」
｢そうかな。張り切りすぎたな」
｢いっしょに食べよ」
｢うん」
(…だめだ)
今の自分はどうかしている気がする。
触れたいのに怖くて、怖いはずなのに体は欲しがってきかない。でもやっぱり怖いし、何より梅野に申し訳ないと思う。どうしたいのか、わからない。
｢あ、これ、美味しい…｣
無邪気に言う梅野は、Aの目にこの世で何より穢れのないものに映った。
Aも適当にグミを口に入れたが、あまりおいしくなかった。口に入れた直後に、自分がグミを嫌いなことを思い出した。
｢あ…梅野。そういや、お父さんとお母さんは？｣
｢あんまり、帰ってこない｣
(あ、マズった…か？)
｢何にも言わず、お邪魔して大丈夫かな｣
｢大丈夫。二人ともそういうの気にしない。…忙しいからね｣
｢…そうなんだ｣
それ以上聞くのはやめて、話題を変えた。
｢梅野って、何か部活やってないの｣
｢なんにも｣
｢興味ある部とかは｣
｢んー、べつにない、かな。中学の初めのくらいに写真部に入ってたけど、飽きちゃって｣
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 76人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「男主」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
天泣tenkyu(プロフ) - 読みやすい わかりやすい 面白い 、の三拍子ですね！笑めちゃくちゃ読むの楽しくて一気に全部読んでしまいましたぁ…… (2018年10月11日 20時) (
レス) id: daeb79a243 (このIDを非表示/違反報告)
ミオ(金欠）(プロフ) - 面白かったです。お疲れさまでした！ (2018年2月26日 5時) (レス) id: f13eb61b67 (このIDを非表示/違反報告)
ゆき - 面白いのに、勿体無いと思います。 (2018年1月21日 11時) (レス) id: 581099bb6b (このIDを非表示/違反報告)
ゆき - 読みづらい。 (2018年1月21日 11時) (レス) id: 581099bb6b (このIDを非表示/違反報告)
小梅 - めっっっちゃおもろいです!!二人が再会できて良かったです!!更新頑張ってください!!q(^-^q) (2017年12月27日 17時) (携帯から) (レス) id: 76f089da6a (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ぺぺこ | 作成日時：2017年10月30日 0時
