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｢そっか」
梅野は寂しそうに言った。
Aが彼の頭を撫でて｢また来る」と言えば、嬉しそうに目を細めた。ちょっと猫みたいだ。
Aが梅野の家の玄関を出ると、丁度瑞季と入れ違いになった。Aが｢お邪魔しました」と告げると、彼は｢また来てね」と言ってくれた。
(…あ、そういえば、画材を買いに来ていたんだった。まあ、いいか)
画材とは比べ物にならない収穫を得たのだ。
これ以上の幸せはないと、素直に思った。
＃
それからAは、毎日通い詰めだった美術部を初めて休んだ。理由は言わずもがなである。
｢普通に座ってるだけでいいの？」
｢ああ。それとも何だ、決めポーズでもしてくれるのか？」
｢A先生のお望みとあらば」
｢流石」
梅野家にて、記念すべき二枚目のスケッチである。Aはとても満ち足りた、穏やかな気持ちであった。もう彼への恋も欲も隠すことなく、堂々と描けるのだ。
(ただ、そればかりでもいけない)
──写実性と、彼への愛。両方を兼ね備えていないといけない。自らの描画技術の正確さを存分に発揮しつつ、絶えず変化する彼の刹那の美しさを捕まえなければ。
つまりこの絵は、言葉無きラヴ･レタアなのだ。久し振りに画家とモデルとして向き合うのは、些かの緊張を伴った。
(こうして見れば、よくわかる)
梅野の背は伸び、髪がほんのわずかに短くなっていた。相変わらず華奢ではあるが、はっきりと男性だとわかる体つきになった。
成長期の男子の二年間は大きい。とはいえ梅野は他の男と比べて、ほとんど印象が変わっていない部類だろうが。
Aは心を鎮め、スケッチブックに鉛筆を走らせていく。
やはり描かれている時の梅野は姿勢がいい。彼は言った。
｢そういえばさ…」
｢うん？」
｢一枚目の僕の絵って、どうなったの？あの、僕、描いて貰ってる途中だったのに…美術室に行くの止めたでしょ」
Aは思わず一瞬手が止まった。
(ああ、やっぱり聞かれるよな…)
｢あー…あれ、実は、ほぼ完成してたんだよ」
｢えっ？」
｢ただ梅野と一緒にいたかったから、わざとゆっくり描いてただけで…もう出来上がってる」
｢へっ…」
｢だから、気にしなくていい。見たいんなら、今度持ってくるよ」
｢…持ってこなくていいよ」
梅野は赤くなって言った。
｢そっか」
Aは今日は調子がいいな、と思った。迷いなく手が動いて、線の一本一本が思うまま紙に乗っていくのだ。
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天泣tenkyu(プロフ) - 読みやすい わかりやすい 面白い 、の三拍子ですね！笑めちゃくちゃ読むの楽しくて一気に全部読んでしまいましたぁ…… (2018年10月11日 20時) (
レス) id: daeb79a243 (このIDを非表示/違反報告)
ミオ(金欠）(プロフ) - 面白かったです。お疲れさまでした！ (2018年2月26日 5時) (レス) id: f13eb61b67 (このIDを非表示/違反報告)
ゆき - 面白いのに、勿体無いと思います。 (2018年1月21日 11時) (レス) id: 581099bb6b (このIDを非表示/違反報告)
ゆき - 読みづらい。 (2018年1月21日 11時) (レス) id: 581099bb6b (このIDを非表示/違反報告)
小梅 - めっっっちゃおもろいです!!二人が再会できて良かったです!!更新頑張ってください!!q(^-^q) (2017年12月27日 17時) (携帯から) (レス) id: 76f089da6a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ぺぺこ | 作成日時：2017年10月30日 0時
