今度こそ、君と春を ページ25
｢あの、お兄さんは、ずいぶん俺のことを色々知っていたみたいだけど」
それを聞いた瞬間、向かいに座った梅野は｢あっ」という顔をした。それから、頬を赤くして俯いた。
正座した太股のあいだに両手を挟めて、なにやらもじもじとし始めた。
｢あの…それは。ごめん」
(すぐ赤くなって俯くの、癖なのか？)
それは微笑ましくておおいに結構、むしろ可愛くて大歓迎なのだが、問題はそこではない。
(瑞季さんはどこまで知っているのだろう)
出会ったばかりの時の梅野はとらえどころがなくて、冷たい感じすらした。しかし今は、不意に人の心をぐらりと揺らす艶かしさは鳴りを潜めている。
｢何を話したんだ」
｢あの…ええと、黙秘権で…」
そうはさせないと、Aは更に訊ねた。
｢瑞季さんが俺たちの全てを知った上で、気を利かせて俺を家に案内してくれたように思えるんだが」
｢うう」
(おいおい。顔に図星と書いてあるじゃないか)
｢ばれてるのか？俺たちが友達とは違うって」
｢うん」
｢キスしたのも？」
｢………」
梅野は答えなかったが、顔を手で覆ってしまった。どう見ても答えは『Yes』である。
｢ごめん…Aには言えないようなこと、たくさん兄さんに話した…」
｢やっぱりな」
｢ごめん」
Aはため息をついてから、梅野に微笑んでみせた。
｢まあ、話したんなら仕方ないな。かえって、隠すより楽かもしれない」
｢う、うん。ありがとう」
(まあ、こいつが話した『俺には言えないようなこと』とやらは、全部後で梅野兄に聞き出させて貰うがな)
｢ねえ、Aはさ。まだ絵、描いてるの」
｢ああ、変わらず美術部だよ。今日だって、画材を買いに行く途中でお兄さんに会ったんだ」
｢もういっかい、描いてよ。僕のこと」
｢いいよ」
｢やった」
｢嬉しいのか」
｢嬉しいよ…」
梅野は不意にこちらの目をまっすぐに見て、唇の両端を微かに上げた。
｢僕のことを、もっと見て欲しいんだ」
Aは、はっとした。
(これだ。この表情だ。俺を魅せたのは)
彼は普段、どこか気の抜けたぼうっとした感じ──と言って悪ければ、透明で存在感の希薄な感じがある。
けれど時折現れる妖艶な表情は、花が咲きほころんだ瞬間そのものだった。そんな時に彼は強く人の目を惹き付け、何より存在感があるのだ。
Aはその瞬間に、画家としても男としても恋に落ちたのだった。
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天泣tenkyu(プロフ) - 読みやすい わかりやすい 面白い 、の三拍子ですね！笑めちゃくちゃ読むの楽しくて一気に全部読んでしまいましたぁ…… (2018年10月11日 20時) (
レス) id: daeb79a243 (このIDを非表示/違反報告)
ミオ(金欠）(プロフ) - 面白かったです。お疲れさまでした！ (2018年2月26日 5時) (レス) id: f13eb61b67 (このIDを非表示/違反報告)
ゆき - 面白いのに、勿体無いと思います。 (2018年1月21日 11時) (レス) id: 581099bb6b (このIDを非表示/違反報告)
ゆき - 読みづらい。 (2018年1月21日 11時) (レス) id: 581099bb6b (このIDを非表示/違反報告)
小梅 - めっっっちゃおもろいです!!二人が再会できて良かったです!!更新頑張ってください!!q(^-^q) (2017年12月27日 17時) (携帯から) (レス) id: 76f089da6a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ぺぺこ | 作成日時：2017年10月30日 0時
